原因は大したことじゃなかった。

電気をつけっぱなしにしてしまった私にいつものように瞬くんは怒っていた。
悪いのは私のくせに、つい言ってしまった一言。


『電気代なら、私だって出すわ。』


メジャーデビューをせず、バイトを詰め詰めで頑張っている瞬くんに、そう言ってしまった。

私は、働いているから少しくらいなら瞬くんの金銭面をどうにかしてあげられる。

そんなニュアンスを含んだ言葉は、彼の男としてのプライドや価値観を壊してしまうだけなのに。

言ってしまったあと、ハッとして瞬くんのほうを見れば目を見開いて、動揺してた。反論も怒りもみせず。




「…瞬、くん」


それが昨日の夜のこと。
あのあと、気まずさのあまり私は自分の寝室へ駆け込みベッドの中で寝てしまった。


そして今時計は朝6:00前を差す。

いつもよりだいぶ早く目が覚め、瞬くんに謝らなくちゃと思い家中を探すけど、いない。瞬くんがいない。
こんなに朝早いのに…。外はまだ薄暗くて、少し雨が降っている。

……瞬くん…。

昨日の私に怒って出ていっちゃったとかじゃない、よね…?

彼が私を置いてどこかにいってしまうなんて、そんなの…。
…でも私はきっと彼を傷つけた。


どんどん心を支配していく不安に耐えれなくなって玄関を飛び出す。
雨はやんでなくて私の髪を、顔を、体を冷たく濡らしていく。
左右をみて瞬くんを探すけど姿は見えない。血液が沸騰したみたいに不安は大きくなって涙が溢れる。


「ふっ…うっ…、しゅっ…くん…っ」


ごめんなさい、ごめんなさい
ちゃんと謝るから
置いていかないで、いなくならないで


涙と雨でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆えば、グイッと引き寄せられる感覚。



「風邪をひくつもりか!」

「…えっ…」


荒げた声に顔をあげれば、怒った、瞬くんの顔。


「こんな雨の中、そんな薄着で…アンタはバカか!」

「だっ、て、…瞬くんがっ、いなっ…いなく、……っ」


嗚咽しながら説明しようとすれば、悪い、と言って抱き締めてくれる瞬くん。その言葉に首を振って、瞬くんの温もりにひどく安心しながら強く抱き締め返した。




「…新聞、配達?」

「あぁ。いつもは悠里が起きるまでには帰ってこれるんだが、今日は雨のせいで手間取って…」


家に入るなりタオルで優しく拭いてくれた瞬くんは、温かいコーヒーをいれてくれながら説明してくれた。


「そんなの…私、知らなくて…」

「言ってなかったからな。」

「てっきり、出ていっちゃったのかっ、て…」


そうじゃなかったという安心と、もし出ていっていたらという恐怖にまた涙がにじむ。


「俺が、貴女を置いていくわけないだろう?」

だから泣き止んでくれ、と優しく親指で涙を拭ってくれる瞬くん。


「でもっ、私昨日ひどいこと…」


きっとあの言葉は瞬くんを傷つけたとおもう。ううん、絶対傷つけた。


「そんなことはいい。…確かに、俺にはまだ貴女を養えるくらいの金もないしな。その反面、悠里は働いてる。」

「…でも言っていいことと悪いことが…」

「だけど、いつか俺自身の力で貴女を幸せにしてみせる。」

「っ!」


瞬くんの目は真っ直ぐ私を捕らえていて、私はたまらなくなって瞬くんに抱きついた。


「ごめっ、なさい…っ、瞬くんっ…す、きっ…」

「俺も、貴女が何よりも好きで大切だ。」



いつまでたっても泣き止めない私を瞬くんは優しく抱き締めて、ずっと背中を撫でてくれていた。



その腕の中で、私はとても幸せで暖かい瞬間を噛み締めた。



















#悠里先生はナナ相手だと少し子供で泣き虫だといい





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