「一くん、おめでとう。」



ほほえんで言う悠里がかわいくて、嬉しくて抱き締める。そうすれば、俺の首にも腕が回ってきてお互いぎゅっと抱き合う。

悠里の髪に顔を埋めて香る甘い匂いを堪能していると、腕のなかでもぞもぞしだした。
少しだけ体を離して、悠里の顔を覗き込む。


「どうかしたか?」

「あれ、全部一くんに?」

「?」


なんのことかわからなくて首を傾げると、「あれよ。」と苦笑いしながら指をさす。

その指先を辿れば、積み重ねられたダンボール。その中身は、今朝から届くファンからの誕生日プレゼントや手紙。
いつもはそんなに届かないけど今日は別だったみたいですごい量の贈り物が今朝から届いていた。


「中身はまだ一個も見てねぇんだけどな。」

「へぇ、すごい量ね。」


チラッと悠里を見れば感心したような顔をしている。いくらファンからといっても大半は女性からの贈り物。彼女は、嫌だとは思わないのだろうか?
きっと逆なら、俺は耐えれない。


「なぁ、悠里。」

「なぁに?」

「悠里は、その、嫉妬とかしねぇの?」


思い切って聞いてみた。


「嫉妬?」

「…ほら、いくらファンからって言ったって女の人からのもあるわけだろ?」

「それはそうだけど、それだけ一くんが頑張っているのが伝わっているってことでしょ?」


そう小さい声で聞けば、すこし困ったように笑って答える悠里。

やっぱりそうだよな。こんなことでいちいち嫉妬なんかしねぇか。


「ハハ、だよな。やっぱりなんでもない。ごめんな、忘れて。」



『私以外の女の子からなんか受け取らないで。』


そう言われれば悠里以外からなんてなにも受け取らないのに。


(こういうところがガキなのか。)


たった今日歳をひとつ重ねたのに、まだまだ自分が子供だと思い知らされる。


「一くん、聞いてる?」

「えっ、悪ぃ聞いてなかった」


もう、と膨れる悠里の顔をみたら嫉妬とか、子供だとか、もうどうでもよくなった。

悠里は人一倍優しくて、せっかくの贈り物を受け取るなだなんて言うわけないことを俺が一番知ってんだ。


「もう一回言って、悠里。」

「あのね、」


促せばいきなりモゴモゴとし始める。そして少し俯いた悠里の口から小さな声が聞こえた。


「…私のを最初に開けてくれる?」


その小さな声は思っていなかった言葉を紡いで、でも聞き間違うことなんかなくて。

ダメかしら?と聞く悠里にバレないように緩んだ口元を押さえる。


「それは…、当たり前だろ?」


こんな小さなお願いを喜んでいる俺はやっぱり子供なのかもしれない。

でも、


「じゃあ、コレ…。お誕生日おめでとう、はじめくん。」



愛しいこの人に祝ってもらえるならば無意味に歳をとるのもいいかもしれねぇ。




(なんて思う俺はバカのままなのかもしれない。)






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