仕事を終えて聖帝からの帰り道。悠里の隣には、この間からお付き合いをはじめた同僚。2人の間にはまだ少し不自然な距離があってなんとも初々しい光景。
会話を一段落終えて、何気なしに下を向いた悠里の目についたのは真っすぐ伸びた二階堂の手。
スラッとした指が綺麗で、その手に触れたい。と思った。
(ふ、触れたいだなんて!)
自分で思ったことに赤面しながら一人恥ずかしさと戦っていると、彼は気付き尋ねてくる。
「…悠里?どうかしましたか?」
「えっ!いやっ、なんでもないです!」
いきなり声をかけられて焦った悠里は、自分の考えてたことがばれてしまわないように取り繕った。
「あ、あのっ、二階堂先生はっ、」
「悠里、学校をでたらお互い名前で呼ぶことに決めたはずです。」
そうだった、つい…。
学校では、二階堂先生と呼んでいるのに学校を出ると、衝さんだなんて少しドキドキしちゃうしくすぐったい。
それでも名前で呼べるのは嬉しくて、悠里は呼びなおす。
「しょ、衝さんは、」
「はい。」
「手が、綺麗ですよね。」
悠里が名前で呼んだ瞬間、彼は柔らかく微笑んで、そのことが見てとれた悠里はつい心の中で思っていたことが口にでてしまった。
「手、ですか?」
急に振られた話題に二階堂は不思議そうに自分の手をマジマジと見る。
そんな様子を見て自分が発した言葉を理解した悠里は顔が熱くなるのを感じて焦りだす。
「へっ、変なこと言ってごめんなさいっ、私帰ります!」
「は?今こうやって帰ってるじゃないですか。」
「じゃっ、じゃあここで、」
「本当にどうしたんですか?」
「〜〜〜っ、手っ、手が…!」
「……?」
「衝さんの手に、触れたいと、思っ…た……んで…」
興奮して口走ってしまった言葉の重大さに気付いた悠里はあわあわしながら二階堂のほうを見た。
彼はとても驚いていて、目を見開いていた。
もうどうしようもなくなった悠里は顔を真っ赤にして二階堂のもとを離れる。
が、二階堂は離れる悠里の手首を掴んで自分のほうへと引っ張った。
「しょ、う、さん…?」
急に後ろへ引かれてポスッと二階堂の胸の中へおさめられた悠里。お腹の辺りには彼の腕が回されいて後ろから抱き締められる格好。
耳元で聞こえる彼の息遣い。こんなに密着したことは今まで一度もなかったのに。
「私は、手だけでは満足しません。」
「…え?」
後ろから聞こえた小さな声。
「手だけではなくて、悠里のすべてに触れたいと思います。こんな風に。」
そう言われた直後に、回っている腕がきつくなって首に顔を埋められる。一瞬びくっとした悠里だが、その言葉の意味に彼の優しさと愛しさを感じて回っている腕に自分の手を添える。
「…衝さん、手…つないでくれますか?」
そう尋ねれば「もちろん。」と究極優しい声がかえってきて、腕が離れ手を絡めとられる。
不思議と2人の間には恥ずかしさも距離もなくなっていて、お互いつないだ手を握り締めた。
(あ〜の陰険メガネ、よくも俺の子猫ちゃんにキザなことを!)(はいはい、葛城くん。嫉妬は醜いですよ〜?)
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