「ごめん悠里、ちょっとだけ。」

合宿に行っていた彼は帰ってくるなり、そう言ってベッドに倒れこんでしまった。
どうやらすごく疲れているらしい。


「はじめくん、そんなに疲れてるなら私また明日来るわ。」


本当なら今日帰ってくるはじめくんを迎えて一緒に夕食を食べるつもりだったんだけど…。こんなに疲れているなら仕方ないわよね、明日また来よう。
そう思ったが、


「ダメ、帰るな。ほんとにちょっとだから…、帰んないで。」


ベッドから離れようとした私の手首を掴んでそう言うはじめくんを放って帰るだなんてできなくて。
けっきょく、1時間経ったら起こすという約束で待つことになった。



そして1時間半経った今。
いまだに起きないはじめくんを見つめながら少し悩んでいる。
外食は諦めて少し上達した料理を作ったし、合宿で使っていた服も洗濯をすませた。あとははじめくんを起こすだけなんだけれど。


「やっぱり疲れているなら寝させてあげたほうがいいわよね。」


熟睡しているところを起こすのもかわいそうだから、今日はこのまま帰ることにした。作った料理もレンジで温めればまたおいしく食べれるだろう。
ベッドに近づいて寝ている彼を起こさないよう、小さく「おやすみ」と言って玄関へ向かう。


靴を履いてドアを開け外に出た瞬間、ものすごい力で後ろに戻された。


「っ!はじめくん?」


首に回っている腕は確かめなくてもさっきまでベッドで寝ていた本人のもので。


「起こして、って言っただろ。」


耳元で寝起きの少しかすれた声。ハァ、とため息が聞こえたと同時にくるりと体を回される。


「少し仮眠とるつもりだったんだぜ?やっぱ寝始めたらなかなか起きれねぇな。」

「そのまま寝ててもよかったのよ、疲れてるんでしょう?」


そう言うとピンッとでこぴんをされた。全然痛くはないのだけれどそこを擦りながらはじめくんを見る。


「机の上においしそうな料理あった、けど悠里居なくて俺ひとりで食べんのは淋しいだろ?疲れも悠里が居ねぇと癒されない。」


「……じゃあ、まだはじめくんの側に居てもいい?」


「もちろん。」


ニカッと笑うはじめくんにつられて笑うと、ぎゅっと抱き締められた。


「それに、合宿中ずっと悠里と会えなかったから…すごい今日が待ち遠しかった。」


「私も楽しみにしてたの。はじめくんに久しぶりに会えること。」


「ほんとギリギリで引き止めれてよかったぜ。これで悠里が帰ったことに気付かずにずっと寝てたら俺すっげー落ち込んでた。」


背中に回っている腕をきつくしながら肩におでこを乗せるはじめくんを見て、あぁ帰らなくってよかったと心から思った。


少し予定は狂ったが、久しぶりに会えた愛しい彼を感じてそんなことも気にならなくなり、悠里もゆっくり腕を回した。





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