「なぁに、これ……。」
唖然としている目の前の愛しい彼女の手には先ほど俺がPresentしたものが握られている。
「なにってケータイだ。」
「そんなことはわかってるわ、私が聞いてるのはなんでこれを渡すのかってこと。」
「そんなこと決まっている、今日は日本で言うWhitedayだろう。」
1ヶ月前のバレンタインデーに悠里からもらったchocolateのお返しだ。
「あ、あぁそうね、ホワイトデーね…って違うでしょ!なんでチョコのお返しがケータイ電話なんですか!」
リボンを巻いてあるケータイを握り締めた悠里は喜びもせず怒っている。何故だ、意味がわからん。
「それに私ケータイなら持ってるわ。」
「俺専用だ。2個あっても不便ではないだろう?」
「翼くん専用!?」
「俺とのケータイ同士ならどこに居たって繋がる。圏外なんてないぞ!ハーッハッハッ!どうだ、すごいだろう?」
「すっ……すごい…。…ハッ、そうじゃなくって、普通のケータイでも十分でしょう!それなのにお金使っちゃって…。」
……今日の悠里は機嫌が悪い。なにを言ってもすぐかみついてくる。Why?最近仕事ばかりでなかなか会えてなかったからか?
「悠里…気に入らないのか?」
「気に入らないっていうか…」
耳元に口を近付けて問えばたちまち顔を赤くする悠里。かわいい。
「心配なんだ、お前のことが。」
「……心配?」
悠里の肩がピクッと動く。ときめいているのだろう。
このまま、何故かわからんが機嫌が悪いのを直そうと思い続けて耳元で囁く。ケータイをPresentした理由を。
「俺が仕事で圏外に行ったときやお前が道に迷って圏外にでも行ってしまったときに繋がらないと不安なんだ。」
ギュッと抱き締めておでこにKissを落とそうとすると、小さな声が聞こえた。
「……圏外じゃなくったって相手が電話にでないと意味ないのに。」
「What?」
聞き返せば悠里は瞳をこちらに向けてキッと睨む。
「いくら圏外対応でも翼くんが電話にでなければ繋がらないってことよ!」
「悠里、なにをそんなに怒っているんだ?」
確かに悠里の言っていることは正しい。最近は仕事のせいで会うどころかろくに電話もしていない。悠里からの不在も入っていた。
「心配とか不安とか……口だけで言っちゃって。本当に心配なら傍に居てよ!」
その言葉にハッとして悠里の顔を見てみると怒っていた瞳には少し涙が潤んでいて。
(Shit こんな顔をさせるハズじゃなかったのに。)(俺はどうしてこうもバカのままなんだ。)
「Sorry、悠里。お前の気持ちをわかってやれなくて。これは、ナシだ。」
もう一度、腕のなかに居る愛しい人を優しく抱き締める。そしてケータイを彼女の手から抜き取る。
「つ、翼くん…」
「What?どうした。」
「ナシって、それどうするの?」
「そのままの意味だ。処分する。」
キッパリそう言うと「えぇっ!?」と悠里が声をあげた。
「もったいないじゃない!」
「これからはこの俺がお前の傍に居ると決めたんだ。こんなものは必要ないだろう?」
持っているケータイをゴミ箱に捨てようとしたら悠里がその手を掴んでケータイを奪う。
「やっぱり……貰っちゃダメかしら?」
「確かに私よく道に迷っちゃうし、翼くんもお仕事いろんなところであるだろうし、それに…翼くん専用だなんて…すごくうれしいから。」
少し照れながら言う悠里にダメだ返せなどと言えるはずもなく、結局そのケータイは悠里のものになった。
(…女というやつはよくわからん)
#そもそも外国にはホワイトデーってないんじゃ…
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