未だに冷めきった風が、俺の頬を撫でた。もう3月というのに、どうしてこんなにも寒いんだ。
鞄を持ったまま花壇の前にしゃがみこんだ俺は、縮こまって腕をさすった。

俺は花に水やりに来たのに。土の湿り気を確かめようと腐葉土に手を伸ばしたが、湿っているのか、ただ冷えているだけなのか、よくわからなかった。
今は諦めようかと憂鬱な気分で立ち上がると、後ろから聞き慣れた声がした。


「幸村」

「ん、ああ、真田」


『風紀委員』と書かれた腕章を身に着けた真田が居た。
もう部活を引退した俺達には、当然朝練は無い。真田は朝早くから偉いな。俺もだけど。


「おはよ」

「おはよう。…早いな」


俺の思っていたことを言ってきて、少し笑えた。


「真田、風紀委員も代替わりしたんじゃないのかい?」

「勿論だ」

「それなのに、真田は偉いね」

「幸村…?」


俺はまだ、あのテニス部が名残惜しくて、まだ朝練に出る気分で校門をくぐる。
習慣って怖いなぁ、なんて。けれどこの行為は習慣から来るものではない。


「幸村、寒くないか?」

「え?」


ふわりと、首に暖かな温もりが。

マフラー。


「どうせ3月だから、とマフラーを置いてきたのだろう。また体調を崩すぞ」

「さ、真田…?真田がなんでマフラーなんか…」

「…た、たわけ」


目を逸らした真田に、笑みがこぼれた。






神の子の憂鬱
(すぐ顔に出るお前の)
(言いたいことなんて)

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