「忍足」


「なん?」


「俺のこと好きか?」

















告げた言葉は君を無視して大空に消えた










「当たり前やん、大好きやで」


「そうか」




風がびゅうびゅうと吹いていた。屋上は寒く、冬の匂いに満ちている。俺達はざらついたコンクリートに腰掛け、フェンス越しに大空を見上げていた。
大空は碧く目にしみる。手を伸ばせば掴めそうだと思ったが、フェンスに遮られて触れることすらできない。



「どないしたん?景ちゃんがそないこと言うん珍しいわ」


「別に」



何故と放たれた言葉に、俺は無鉄砲に応えた。忍足は寂しげに眉を潜めて小さく「そか」と呟いた。



「なあ忍足」


「ん?」


「別れよう」


忍足が、呼吸を躊躇うのがわかった。


「な、で…?」


「…」


「嫌いになったん…ッ?」


なんで、どうしてと言わんばかりに忍足はフェンスをガッと掴み立ち上がった。逆光で忍足の表情がわからなくなった。



「お前とはもう、付き合えない」忍足から目を離した俺は、意味もなくフェンスに触れた。





「……気付いたんだ。この関係は危険が多過ぎる」




フェンスの錆が指を汚した。忍足がフェンスを掴む力を強めたのか、フェンスが小さく揺れた。






「でも深みに嵌まっていない今なら、まだ引き返せる」








俺は立ち上がり、忍足に向き直った。

そして最後にぎゅっと、忍足の服の裾を掴み、顔を肩にうずめた。




「…ごめん、もう俺はお前の手を握れない」








「…」



忍足は俺の手を振り払い屋上を後にした。






この後のお話

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