「真田、今年のクリスマスは出掛けないか?」

「む、構わないぞ」

「ふふ、嬉しい」





いつだかの会話が、蘇る。


いつからだろうか、サンタクロースを信じなくなったのは。
もしかしたら、毎年定位置に現れるプレゼントに喜ぶ反面、いつまでも嘘を突き通す両親に腹を立たせていたのかもしれない。

今は午後の九時半。
きっと、サンタクロースを信じている赤也はもう寝ているのだろう。

病院の屋上から見た街は、赤だの緑だのの光で溢れていた。
時折、真っ白なシーツが視界を掠め、決して良い景色とはいえない。

すると、屋上のドアが開く音がした。

「精市君、幸村精市君、もう直ぐ消灯時間だから病室に戻ってくれるかな」

「ああ、はい」



 ◆ ◇ ◆



「真田ごめんね…ッ今年はって、俺が言ったのに。クリスマス一緒居られない…!」

「貴様が気にすることではない、必ず会いに行ってやる」

「本当?」

「ああ」

「じゃあ、来なかったら真田が事故にでも遭ったって判断するからね」

「構わん」

「ふふ、楽しみにしているよ」




 ◆ ◇ ◆



会話が、耳なりの様に響く。
結局、真田は来なかった。


真田が…事、故…!?

嘘だ、嘘だ、真田が事故なんて…!


再び真っ白な部屋に閉じ込められた俺は、呪文のように「ありえない」「嘘だ」と呟いた。

真田が約束を破る訳無い。きっと何かあったんだ…!

すると十時、消灯時間を告げる鐘が鳴り、電灯がふっと消えた。
外に出て連絡を取ることが出来ぬもどかしさにぎゅっと目を瞑り、どうか真田が無事でありますように、そう祈った。



 ◆ ◇ ◆



朝。真っ白な病室は朝日に照らされ白さを引き立たせていた。



――えっ?

枕元に見覚えのある、いや、見慣れたマフラーがあった。
立海大指定の、チェックのマフラー。


「あら、精市君起きた?」

「あの…っこれは…?」


マフラーを軽く掴み、看護婦に訪ねた。
すると看護婦は聖母のように微笑んだ。


「それ、昨日の消灯時間ぎりぎりに訪ねて来た方が置いて行ったの」

さな、だ…?

「面会時間も過ぎてるし、もう消灯時間だし、引き取って貰おうとしたんだけど、じゃあこのマフラーを病室に置いておいてくれって…、ええと、なんて名前でしたっけ…」

「真田…真田、弦一郎ですか…っ?」

「ええ、そう、そうだったわ真田さんよ!」



真田…よかった。
病室に飾られた造花のクリスマスローズに目をやり、もう温もりの失せたマフラーを抱き締めた。






クリスマスローズは泣かない
〈クリスマスローズ〉私の心配を和らげて下さい。

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