「あー、今日は寒いなー」

独り言を言い、顔を上げて目に映ったのは灰色の空。
重苦しい空に溜め息を吐いた。吐いた息は白い。
冷たい部室のドアノブに手を掛け、静電気が発生しなかったことに安堵した。

「おはよ、壇くん」

「おっおはようございますです!千石先輩!」

「今日は誰を調べてるのかな?」

小さな後輩に挨拶し、ロッカーに手を掛けた。
安堵は束の間。静電気の痛みに手を引き、顔をしかめた。

「今日は氷帝学園の跡部さんを調べてるです!」

「跡部くんかー、彼は本当に面白いよね。彼は――」

ガシャアッ

部室の外から聞こえた音と悲鳴に似た叫びに時が止まる。

「ダダダダーン!阿久津先輩!」

途端に部室から出て行った小さな後輩に苦笑し、学ランに手を掛けた。



 ◇ ◆ ◇



RRRRRRRRRR…

部活を終え、ひとりの帰り道。
突然鳴り出した携帯電話にびくりと肩が跳ねた。

「もしもし、千石ですけどもー」

『千石か?俺だ』

電話越しの特徴的な声に笑みがこぼれた。

「跡部くんかー、跡部くんが電話なんて珍しいね、どうしたの?」

『陸橋、目の前の陸橋見てみな』

「陸橋?」

顔を上げ、目に映ったのは黒い空。そして目立つ栗色の髪。

「よお、千石」

「跡部くん!」

陸橋の階段を駆け上り跡部のもとへ。
腰に手をあて、誰もが目をやる色男のもとへ。


「なんで跡部くんがこんなとこに?」

「本屋に寄ってた」

そっか、と応え彼の隣に並んだ。
頬を打つ風は冷たい。

「そうだ、この後跡部くんの家、行ってもいいかな?」

「別に、構わねーよ」

「ありがと」

少し驚いたような顔をした彼はきびすを返し歩き出した。
彼のきれいな髪がなびくのを眺め、追い掛けた。



 ◇ ◆ ◇



「ホットコーヒーを淹れてくる。待ってろ」

ほのかに甘い薔薇の香りが漂う、彼の部屋。
同じ、中学生の男子とは思えないきれいな部屋。
慣れない空気の中にひとり。だが不思議と息がしやすかった。

きれいな部屋を一通り見渡すと、カレンダーが目に入った。

白地の、シンプルなカレンダー。
真っ白なカレンダーの中に、一カ所だけ目立つ赤い丸印。

『11/25』



後ろではにかむ君に、気付かぬ振りをした。





プレゼント、フォーユー
11/25#千石誕

(そんなの見ちゃったら)
(もうなにもいらないよ)

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