日の暮れかけの赤い空。
赤い空が青く、黒く変化するにはそう、長くはないだろう。

忙しく進む時間に反する様に、赤い空の下のんびりと歩く2人。
伸びる影は長い。


「おいジャッカル」

「…なんだよ」


つややかな赤い髪を揺らし、丸井は足を止め振り返る。
それに反射する様に、少し後ろを行くジャッカルも足を止めた。
影も同じくまた、足を止めた。


「んだよ、素っ気ねえ」

腕を頭の後ろで組み、丸井は眉間にシワを寄せた。


「いや、いきなり止まるからよ」

「止まっちゃ悪ぃんかい」


別に、とでも言うようにジャッカルは視線をずらした。


「ジャッカル」

「なんだよ」

「俺ん事好きだろィ?」

「は?」

「は、じゃねーだろィ。好きか嫌いかって聞いてんの」

突発的に放たれた質問に顔を歪ませた。

「んじゃ、なに欲しい?」

まだ一般的な質問を放たれる。
ジャッカルは一旦考えるような仕草をした。

「いらね」

「っんだよこの俺がプレゼントやるっつってんだぜィ!?」

「お前から物を貰った試しがねえ!ロクなもんくれねーだろ!!」

赤い空の下、少し遠慮がちな怒声が響く。「なああっ、おまちょ、軽くひでえだろィ!」

「事実じゃねえかっ」

すると丸井はどこまでも不機嫌そうな顔をし、手を伸ばした。
指先はジャッカルを向いている。

「ふん、ジャッカルの癖に」

「んだよ悪ぃか」

丸井はジャッカルのネクタイを引いた。

「こうしてやるよィ!」

「――!?」


ジャッカルは口に触れた暖かい感触と、舌の上にできた冷たいモノに絶句した。
そして、目前に移る赤と黄のコントラストに。



「へっ、プレゼント」

丸井は意地悪く笑い逃げるように歩みを進めた。
丸井の口に、ガムを噛む様子はない。




ジャッカルもまたゆっくりと足を動かした。
口の中のモノは、今は生暖かい。


「…まずい」

もう空は紫掛かっている。





体温とキスの味
11/03#桑原誕

(温かいくちびる、)
(それには味は無い)

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