跡部が本屋に寄るということで、偶然同じになった帰り道。

本屋が視界に入ったところで忍足は「せや、」と口を開いた。

「跡部、ちょおノート貸してくれへん?」

「ノート?どの教科だ」

「英語」

「構わねーよ」

「おおきに」


ノートを受け取り、再び歩みを進めた。

別に、勉強に不備がある訳では無い。
それに、英語が苦手という訳でもない。
海外交流委員会に所属しているというのもあり、寧ろ英語は得意な方である。

しかし何故、ノートを借りたのかというのは単純な事。

ただ単に、跡部と深く関わりたかった、というものだった。

「明日、絶対返せよ」

「おん、絶対な」

「じゃあな」

「また明日〜」


前を向いたまま小さく手を降った跡部を見送り、再び歩みを進めた。

家に帰り、直ぐに借りたノートを開いた。

ノートには、きれいな筆致で淡々と、文字が書き記されている。
形の整った筆記体は、書き慣れているというのをわからせてきた。


(跡部、ほんまに同じ男子中学生やよな…?)

男子中学生とは思えない程のきれいなノートに、そんな当たり前の事さえも嘘に思える。


何度も何度もノートを見直し、ふと時計を見れば、帰宅した時刻から、既に針が一周している事に気が付いた。

(そろそろ飯食うか)

ノートを閉じ立ち上がると、足元で乾いた音がなった。

(…手紙?)

見れば、足元には四つ折りにされた紙。

手に取って開いて見れば、何行か文字が書いてあった。

簡潔に言えば、『突然の手紙申し訳ない』『気持ちを知って欲しいと思いこの手紙を書いた』『あなたが好き』と言うような内容だった。


一見、跡部宛のラブレターとも思うが、宛先は書いておらず、送り主の名前もない。
そして、一人称は俺。

そして、これは跡部の字だった。
先程までずっと見ていたのだ、見間違える筈がない。

一体誰に宛てたのだろうか、考える前に涙が零れた。

涙は手紙に落ちて、文字が黒く滲んでいった。

黒く滲みゆく紙面は、まるで自らの心の様だと思った。


「好き言う前に失恋やなんて…っ格好悪いなあ…ッ」

情けない声が、嫌ほど響いた。


 ◇ ◆ ◇


「跡部、ノートありがとさん」

「おう」

無心で、目を見ずノートを返した。
紙は汚れてしまったけれど、そのままノートに挟んで。



「…忍足」

背を向けたとたんに聞こえた声に、肩が跳ねた。
同時にノートが床に落ち、足に当たった。


「…見たのか?」

「…何がや」

跡部の方を向けば、紙を握り締め震えていた。

「…っ…手紙」

「…誰宛てなん?…!?」


突然腕の中に飛び込んで来た温もりに、忍足は硬直した。



「…バーカ…お前だよ…っ」

服が濡れるのを感じた。








ア・クロッシング
(君とすれ違った事さえ)
(わからない程に盲目で)

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