忍足は、優しい。
所謂フェミニストと云うのか、けれど俺は男で。
男の俺にさえ優しいのだ。
それが堪らなく嬉しくて、忍足が時折見せる笑顔が素敵で、
最近、気がついた。
これは、恋慕。
俺は…――――好き。
おれは、
おしたりが、
すき。
でもきっと、忍足は俺に、そんな感情抱いてない。
そうだろ?わかってる。
「跡部、昨日部活来おへんかったけど、今日はどないするん?」
「ああ、今日は途中から出る、…多分」
生徒会の書類が溜まってるから。
「多分て、また生徒会か?」
「まーな、」
でも本当は、忍足を無意識に目で追ってしまい、この気持ちがバレてしまうのが、怖いから。
今も、書類しか見ていない。
「よっしゃ、今日は俺も手伝うわ」
「なっ、け結構だ!お前は部活に…」
「駄目や、部長がいつまでも部活来おへんかったら駄目やろ、だから俺が手伝ったる」
そのまま、忍足は生徒会室に留まった。
駄目だ、そんなの。
仕事に手が付かなくなってしまう。
――――――――……‥
「忍足、今日はもう終いだ」
「えっちょ、まだ終わって無いやんか!」
「これ以上お前に迷惑はかけらんねえ、おら、部活行くぞ」
「跡部っ待ちいや!」
兎に角、コートまで無言で歩いた。
だけど、途中で忍足が、俺の腕を引っ張った。
「おい跡部、なんでそない速歩きなん?まだ時間あるやん、もうちょいゆっくり行こうや」
っツ――――……‥
「なあ跡部、最近変やで?」
「なんでも…っねえよ…」
目をあわせない。
あわせられない。
「嘘…吐くなや」
「…ぇ…?」
「俺の事…避けとるやん…俺の事…嫌いなん?」
違う、
違う、
違うのに!
「ああ!嫌いだ!いつもお節介やきやがって!俺様に…構うな…ッ」
違う、違うから…ッ
「…ああ、わかった、堪忍な、跡部…」
あーあ、嫌われた。
嘘吐いた。
なあ、俺、嫌われたんだな。
でも…
あのあやふやな関係より、ましかもな。
変な勘違いもしなくなる。
サヨナラ。
その日は、練習が手に付かなくて、ずっと上の空。
はあ、なんていうか、宍戸風に云うと激ダサだな。
部員が帰った部室。
今日はいつもと違い、呼吸の数は、一つ。
いつもは忍足がいたから。
ぽつ、ぽつ、
外から雨音。
窓から見た誰も居ない景色は濡れて、歪んでいた。
部誌を書き終え、外に出た。
(傘…持ってきてねーよ…)
濡れながら、一人呟いた。
「なあ…忍足…?」
「もう…俺の事…嫌いだよな…?」
「お…した…りい……っく…ぇっ」
頬に、雨とは違う、温かいモノが流れた。
「っく…んで…泣いてんだよ…お…れ…もっう…諦めたの…にい…ぇっ」
涙が止まらなくて、しゃがみ込んで顔を抑えた。
「ぇ…おしたり…おした…り」
「跡部、」
え…
お、した、り…?
「んでっ、居るんだよ…!帰…ったんじゃ…」
「やっぱり、跡部が気になってん、お節介なのはわかっとる」
「構うな…」
「嫌や、お前が俺を嫌ってても」
「俺はお前が好きなんや」
「え…?」
おしたり…?
なんで?
おしたりのうでのなか…
あったかいよ。
やだよ、やさしくしないで、
うそいわないで、
かんちがいしちゃうから…
「も…止めて…離、せ…」
「嫌や」
「俺に構うな…っん」
唇に触れた、柔らかい、暖かい、忍足の唇。
触れるだけの、
キス。
なあ俺、
これは夢か?
自問自答の再確認
(俺はアイツが好きなのか?)
(そうだアイツが好きなんだ)
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