スコーン nioh x yagyu








■■の家、■■の部屋、■■の私物。そしてその匂いには異臭が混ざっていた。
生臭い鉄臭い。それは紛れもない人の血液の匂いだった。そして同時にそれは、目の前の半屍から漂うものだった。

白く染められていた筈のその髪は、もともとそうだったかのように赤く染まっている。綺麗だったYシャツはグシャグシャで、ボタンは毟られている。首筋にいくつも刻まれた内出血だけが異質だ。

誰がやったのか。部屋に置かれた鏡を見れば一目瞭然で私は血の雨にでも降られたかの如く真っ赤であったがそれは鏡そして眼鏡が汚れているだけなのだと目を瞑った。しかし私の姿はそれが普通なのだと云うように馴染んでおり低い溜め息が漏れた。

目の前の半屍の彼は小さく極小さく胸を上下させている。「■■■■」と囁けば、裂かれた喉からヒューヒューと二酸化炭素が漏れる。彼は生きている。

「……愛してるぜよ」

そう囁けば柳生は眉をひそめた。
目の前の半屍は俺の姿をして倒れ伏し、俺がその半屍の、もとい柳生の姿をしてその柳生の前に居るのは異様な光景であろう。
(私は貴方を殺しました)
(俺はお前を殺したぜよ)

二つの口調が脳を掻き回すように駆け巡った。

俺がまた「やぎゅう」と囁けば裂かれた喉はヒューヒューと音をたてる。その音は前より小さく儚くなっている。

俺は涙を流した。鏡で柳生が泣いている。鏡で俺は死んでいる。

柳生の部屋で俺は死んだ。いや、見た目だけが事実ではないのだ。俺の手によって柳生は死んだのだ。

お前は俺を殺しはしない。しかし俺はお前を殺した。そして今、お前は俺であり俺はお前である。
そう、これは所謂自慰なのだ。俺はお前に殺されたかった。けれど俺は生きている。滑稽過ぎて眩暈を覚えた。しかし心地良い。
この恍惚が消え失せぬ前に命を絶ってしまおうか。

自殺の仕方は沢山ある。けれどこの部屋で出来るものは限られている。

首吊りやリストカットならこの部屋でも出来るだろう。しかし首吊りは美しくない。柳生の姿のまま醜い死に方が出来る訳がない。リストカットは確実に死ねるかどうか定かではない。
ではどうする。睡眠薬でも大量に服用しようか。しかし柳生の部屋に睡眠薬があるかなどわからない。それ以上に、俺に柳生の姿を傷付けることが出来るのか。所詮俺の体だ、しかしそのような勇気などない。
いっそ餓死でもしてやろうか。しかしその前に誰かが来る。この状況を見て軽蔑を孕んだ悲鳴を上げるだろう。

何故、殺した。
愛しくて愛しすぎて、好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらない柳生を殺した。下らない自慰の為だけに、柳生を殺した。
自慰なら俺のまま、柳生に殺せと懇願すれば良いものを。そうだ、柳生は俺を殺しはしないのだ。嗚呼、意味がわからなくなってきた。俺は何がしたい?
柳生に殺されたかった。それだけ?俺は死んでいないじゃないか。
いっそ人殺しとして虫螻のように罵られながら地を這って生きようか。それも心地良い。

所詮俺はマゾヒストなのだ。罵られようが踏みつけられようがそれは快楽であろう。
柳生の前であればどんな醜態だって晒せた。いやしかし柳生は死んだのだ。俺はどう生きる。


嗚呼誰か、俺を軽蔑し今すぐ殺せ。





E.N.D.





スコーン【scorn】
軽蔑、嘲笑、あざけり。
軽蔑の的、物笑いの種。






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