※蓮華




「蓮二、もう大丈夫なのか」

「ああ、すまなかったな」

「いや、いい。では明日な、おやすみ」

「おやすみ」


ガチャリと鍵が閉まる音が異様に響いて闇に溶けた。

今、午前1時を回ったところ。

部屋に戻り、敷かれたままの布団に腰を下ろした。


「…弦…一郎…っ」

枕に頭をうずめ、軋む頭を抑えた。


RRRRR…

『はい、真田ですが…』

「弦一郎…」

『蓮二!?どうしたのだ、こんな遅くに』

「…来てくれ」

『?』

「今すぐ…家に来てくれ…お願いだ」

『わ、わかった、すぐに行く』


突然の呼び出しにも嫌な声をあげない真田が、ただ嬉しかった。

電話が切られ、数10分もしないうちに来てくれた真田が、ただ愛しかった。

「いきなりどうしたのだ…蓮二」

「…」

「な、蓮二っ離さんか!」

「…弦一郎…っ」

「…蓮二…?」
突然服にしがみつき、肩を震わす俺を受け止めてくれるのが、堪らなく嬉しかった。

背中を撫でる手が、触れる吐息が、いつになく温かくて、如何に急いで来たのかがわかった。

「弦一郎…弦一郎…っ」

ひたすら名前を呼んでも真田は此処には居なくて、聞こえるのは時計の秒針位で。

開け放たれた窓から見える月がいつになく白い。
目を溶かす位の光が闇を照らす。

その白い光が、今夜は寒いと強く思わせる。


「げん…いちろ…っ」

真田の体温を求め、先程まで真田が座っていたシーツに手を這わせても、すでに温もりは消えていて、寂しさが増した。


真田が隣に居るだけで満たされる自分が嫌になる。

独占欲が、月を隠す。

真田が居なければ月が無いも等しいと、月が雲に隠れるさまを見つめた。






君思ふて月を見る
(君が闇に飲まれてしまえば)
(きっと私に眠れる夜は無い)

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