※28
少し肌寒い休日。
急に冷え込んで来た季節の変わり目。
する事もないし、外に出るには少し寒い格好をしていた為、紅茶でも飲もうとした時、家のインターフォンが鳴った。
家に居るのは自分ひとり。
親は病院、妹は出掛けていた。
仕方無く立ち上がり、チェーンを外さずに少しだけドアを開けた。
「どなたです?」
「俺じゃ」
「仁王くん!?」
急いでチェーンを外し、ドアを大きく開いた。
「突然どうしたんです?」
「いや、シャワー浴びさせてくれんかの」
「シャワー…ですか?」
突然の訪問でシャワーを浴びに来たとは、と少し疑問を浮かべながらも柳生は仁王を家へ通した。
偶然仁王の手が柳生に当たった。
「すまん」
「いえ、此方こそ…って、凄く体が冷えてるじゃないですか、どうしたんです?」
「公園でうたた寝しとってのう」
「それは大変です!風邪を引いてはいけません。お風呂、沸かしてきます」
「すまんの」
そう、柳生は風呂場へ行った。
―――――――――……‥
「お湯加減、いかがです?」
「ええかんじじゃ」
「良かったです」
柳生は風呂場の扉の前で座り、仁王と話をしていた。
「今日は、一体何をしにここへ?」
「…シャワー浴びに来ただけじゃ」
「嘘でしょう?」
「…」
詐欺師と呼ばれる男をを黙らせられる柳生は、やはり流石と言うべきだった。
「急にのう、寂しくなったんじゃ」
「仁王…くん?」
「…入れ替わりをしたのも、今付きあっとるのも、俺がわがまま言うてできたモンじゃ」
「…」
「…髪も染めて、授業もサボって、そんな俺とは正反対な柳生と付き合っとって、いつか柳生が離れていっちまうんじゃないかと思ってのう…不安に…なったんじゃ」
「仁王くんらしくないですよ。私はあなたのもとを離れたりはしません」
暫くの沈黙。
すると水が流れる音と共に、風呂場のドアが開いた。
「仁王…くん?」
仁王は濡れた体のまま柳生に抱きついた。
「仁王くん…!?服が濡れ…っ」
あろう事か、仁王の腕は強く柳生の腰に手を回していて、肩は小刻みに震えていた。
「仁王くん、おかしいですよ、今日」
柳生は仁王の頭を撫でた。
「もう一度言いますが、私はあなたのもとを離れたりはしません」「…」
「あなたが私をテニス部に誘った時だって、拒まなかったでしょう?ペテンの時だって、その時こそは拒んだものの、今は楽しいものですよ」
そう、柳生は微笑んだ。
「私は、あなたが好きです。ですから、そんな後ろ向きにならないで」
「柳生…」
仁王は柳生の腰に回した腕の力を強めた。
(あなたが、こんなにも弱かっただなんて)
「一匹狼も、可愛いものですね」
濡れた髪に指を絡めた。
狼に化けた白兎
(あなたの脆く、弱い部分を)
(私が支えられれば幸いです)
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