「仁王、くん…」

「…」


柳生は仁王の背後で辛そうに言葉を紡ぐ。仁王は俯いたまま静止している。


「仁王くん…」

「…」


仁王は、やはり動かない話さない。


「仁王くん、本当にごめんなさい本当に…っ」

「…」

「ただ…、辛いんですよ」


柳生は痛そうに目を瞑った。仁王の唇が微かに動いた。しかし声は聞こえない。


「仁王くん、私と付き合ってるのでしょう?どうして他の女性に手を出すんですか…っ」

「…」

「もう、耐えられないですよ…!別れましょう…?」

「…」


仁王は、まだ何も言わない。


「ねえ、別れて下さいよ…っねえ」

「なら、やめよか?」


仁王がやっと、口を開く。柳生は「え?」と小さく言った。


「やめるって…」

「ダブルス、やめよか?柳生は俺んこと嫌いなんじゃろ。やめようや」

「…っ」


仁王は慈愛にも似た笑みを浮かべている。柳生の頬を、涙が伝った。


「な…で、ですか…っダブルスは…」

「関係ない?そしたら未練タラタラじゃろ。俺のことは忘れんしゃい。部活もやめる、風紀委員の世話んならんよう髪も黒に戻すし遅刻もせん」


さようならじゃ。仁王は柳生の涙をひとすくいし、そのまま柳生から遠ざかった。


「…、つ、ぅ…あぁ……っ」


仁王くん、と。仁王が行った方向を向くと、幸村が入れ違いに立っていた。


「柳生、泣いているの?」

「幸村、くん…っ」

「大丈夫、落ち着くんだ。ゆっくり深呼吸をして。大丈夫だから」


幸村が柳生の背中をさすりながら宥めていた。幸村の表情は聖母のごとく優しいものだった。
暫く経って、柳生の呼吸が落ち着き、ふらつきながらも柳生は立ち去った。


そして、無音になった空間に、仁王の声が響いた。



「柳生、好いとうよ」












ラバークライド








《あとがき》優しい悲恋、みたいな。
最後の幸村は仁王です。
こんな感じでこれからも仁王は変装して柳生に近付きます。
段々柳生は気付いて来て、卒業式くらいで柳生はありがとうと告げて終わります。






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