「どうやら俺は、お前のことが好きなようなのだ」
無意識下に紡ぎ出された言葉に、冷や汗が背を伝った。
言いたいことはあながち間違いでは無いが伝えるつもりなどさらさらなかったのだが。
いつだったか、この感情を身近に居た柳生に相談したことがあった。すると「それは恋ではありませんか!いやぁ素敵ですねぇ」などと異常にちゃかされた。(今思えばあれは仁王だったのかもしれない)
恋なんだろうか。しかしこんなことを考えてもわかる訳がない。そんなことを顔に出さないよう慎重に考えていると、幸村はいつもと変わらぬ調子で答えた。
「それで、何が望みなんだい」
「…いいや、何もない」
「そう」
少しだけ、傷ついた。部活が終わり人気のないコートを照らす橙が、その傷をえぐるように綺麗だった。
「弦一郎?」
「ん、ああ、蓮二」
「帰らないのか?」
「いや、帰るぞ」
愛想笑いを浮かべ、部室に向かう。蓮二は何も言わず、俺の後ろについて来た。
「蓮二は先に帰れ」
「いや、聞きたいことがあってな」
「?」
幸村と入れ違いに部室に入ると、そこには俺の荷物だけが残っていた。鞄を取ろうと伸ばした手が、蓮二の言葉で反射的に引かれる。
「精市のことが好きなのか」
「…っ」
「すまない、盗み聞きする気はなかったのだが聞こえてしまってな」
「いいのだ、なんでもない」
蓮二は「ふむ」とひと息おいて、小さな小瓶をひとつ、俺の目の前に差し出した。
「なんなのだ…これは」
「恋心を抑える薬だ。これを飲めば、精市にまた接しやすくなるだろう」
「それはまことか…!」
「ああ」
小瓶を受け取ると、からん、と冷たい音がなった。小瓶の中には半分程のかさだけ錠剤が詰まっている。
俺がその小瓶を頼もしそうに眺めていると、蓮二が珍しく瞳を覗かせながら言った。
「しかし気をつけろ。副作用で更に苦しむことになるぞ」
「…承知した。感謝するぞ蓮二」
◎
薬のおかげか、幸村の前でおかしな言動をすることはなくなった。しかし、おかしい。
「幸村…っ」
夜になれば、辛いくらいに幸村が好きと感じるのだ。
これが副作用というものならば、耐えなければならない。
そして、もうひとつ。幸村がどうしてか、悲しい顔をしているのだ。
「幸村…幸村…っ」
◎
「精市、本当によかったのか」
「柳。なにがだい?」
「薬だが、弦一郎に譲ってしまったが」
「構わないよ俺にはもう必要ない」
「そうか」
「ああ。俺と真田はもう、両思いなんだからね」
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