例えば自身の周囲を飛び回る不快な羽虫を殺したときだ。

これを読んでいる貴方はどう思うだろうか。




きっと、何も思わないでしょう。


ただ、不快だからその不快な個体を潰した。




それだけのことですから。









羽虫の葬儀


















「のう柳生、愛しとう。のぉ」

「…」

「やぎゅ」


どうして、この男はこんなにも容易く愛を口にするのだろうか。

「やーぎゅー」

「なんでしょうか…、しつこいですよ」

「愛しとうよ」

「わかりましたから黙って下さい」


仁王雅治は肩をすくめた。


「そのようなこと、何度言われようが受け答えようがありません」

「え。好きとか、嫌いとかないん?」

「ありません」


不快だ。

愛とは清く美しいもの。そんな容易く口にするものではない。
その不快な口で容易く愛を口にしないで欲しい。黙れ。黙れ。黙れ。


「俺、ほんにお前んこつ好きじゃけ」


黙れ。黙れ。黙れ。


「好いとうよ」


黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。


「柳生」

「黙れ」


仁王は目を丸くし私を見た。間抜けな顔が更に不快で。


「死んで下さい」

「え、ちょ…」

「五月蝿いんですよ、羽虫のようにずっとずっとずっと同じ音を繰り返して」


気付けば私は仁王くんの気管を潰していた。仁王くんは何も言わない。


「仁王くん、仁王くん仁王くん…!」


揺すっても、名前を呼んでも。仁王くんは何も、言わない。







一匹羽虫が死にました。


これを読んでいるあなたはどう思いますか。




きっと、何も思わないでしょう。

ただ、不快な羽虫が死んだだけ。それだけのことなのに。





何故か私は悲しいのです。








end






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