おいかけて、つかまえる | ナノ


  07


今日もいるな…

朝練から戻り自転車を降りて、とある方に目を向けると山田さんがいて
朝も放課後もよく見に来てくれている

最近はあの位置が定位置らしく帰ってきて少し集中力が切れた時に、あの子の顔を見ると不思議と癒される

軽く会釈をすれば満面の笑みで返ってくるから素直に可愛いなと思うし、正直その顔が見たいと思ってしまうようになった

でも多分、彼女はユキに好意を寄せていると思うんだ

だって現に今もユキと話しているし、時々顔を赤らめたりするのを見るとね

ユキは違うって否定するけど

でも連絡もマメに取っているようだし、ボクは山田さんの連絡先とかも知らないし向こうから聞いてくる訳でもないしそういう事なのだろう

だから何だという話
ボクはボクでやる事が沢山あるし、本来そんな事考えてる暇なんてないのだから


「泉田先輩、お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
「先輩今日も素敵でした!」
「そうかな。嬉しいよ」
「着替えるの待ってていいですか?」
「え?」
「あの一緒に校舎まで行きたいな…と」

思いまして…と続く声
ボクと、でいいのかな?ボクは構わないけど…

「構わないけど、ユキじゃなくていいの?」
「何で黒田先輩!?」
「ユキといつの間にか親しくなってるし。違うかい?」
「黒田先輩は、その、色々と悩みとか相談は聞いて貰ってるけど…黒田先輩じゃなくて私は泉田先輩と一緒に行きたいんですけど迷惑ですか?」

珍しく眉を下げてそう話す山田を見て何だか申し訳ない気持ちになる

ボクでいいなら構わないんだ、そんな顔させるつもりじゃなかったのに

「迷惑な訳ないじゃないか。少し待っててくれ、すぐに着替えてくるから」

ボクがそう言えば笑顔に戻って頷く山田さんを見て、ああやっぱり山田さんと言えばこの顔だなぁと心が温かくなった



すぐに着替えて山田さんのもとへ行けば、いつものあの笑顔で出迎えてくれた
ボクも思わず笑みがこぼれてしまう

「待たせたね」
「待ってません、お疲れ様でした」
「ありがとう」

そう言って歩き出す…かと思ったらお互い何となく足が止まったままで
予鈴まではまだ時間はあるからいいけれど

「あの、あと10分だけ泉田先輩の時間下さい!」
「あ、ああ、いいよ構わない」

いきなりの言葉に驚いたけど、もう少し話したいと思ったから嬉しかった

山田さんも時間を気にしてくれていたのか、きっちり10分間ボクたちは部室近くの段差に座って話をしたんだ

「私も筋力付けたいなぁ」
「簡単なモノなら続けられるんじゃないかな?」
「今度教えてくれますか?」
「ああ、構わないよ。初心者の女の子でも続けられそうなの考えとくね」
「はい、絶対約束ですよ!」

そう言って小指を差し出す山田さん

これは、そういう事なのか…?

少し戸惑ったけど、彼女はそのままの状態でいるからボクも覚悟を決めて小指を絡めた

「うん、約束」

細い指はボクとは違う

指から伝わる彼女の体温に自分の心臓が高鳴るのがわかった
なんとなく照れくさいけど、山田さんの表情を見たらこの時間もいいなって正直に思ったんだ

「あの、連絡先って聞いてもいいですか?」
「構わないよ」
「やったー!迷惑にならない程度にLINEしてもいいですか?」
「いいよ、いつでも」

返事は遅れる事はあるけれどと言ったら、すぐに「わかってます」と

ユキとは連絡先を交換しているのに、ボクはしていないことにモヤモヤしていたみたいで
ボクの方が先に親しくなったのにって

今この瞬間、モヤが晴れたのを感じて苦笑いをする

交換したら早速メッセージが送られてきた

『泉田先輩と連絡先の交換出来て嬉しいです!これからもよろしくお願いします。筋トレ指導楽しみにしてます』

と言うメッセージと可愛いスタンプ

目の前にいるのに何だか擽ったい

「ありがとう」

思わず太陽に当たってキラキラしている山田さんの髪の毛に触れた

本当にボクとは違う

指も華奢だし髪の毛も柔らかくて綺麗だし

「さあ教室に行こうか」
「は、はい!」

何故か頬がほんのり赤い山田さん、さっき少し日に当たってたから暑かったのかな?
少し心配になってボクはカバンからペットボトルを出した

「これ、あげる」
「え?ドリンク?」
「暑かっただろう?良かったら飲んで。あ、まだ未開封だから」
「いいんですか?確かに、色んな意味であつい…」

受け取ってくれて良かった
あと、今日はこれを言わなければと思っていたんだ

「水分補給はしっかりとね。外にいるだけで暑いし。あ、あとこの間のクッキー美味しかったよ」
「本当ですか!?食べれました!?」
「ああ。練習の後に頂いたよ。本当に美味しかった」

ボクがそう言えば目を見開いて黙ってしまった
どうしたんだろう?

「あの、また何か差し入れしてもいいですか!?」

ちゃんと迷惑にならないの考えるからと、黙ったかと思えば早口でまくし立てる
ボクのために作ってくれたと言っていた差し入れは本当に嬉しかったし美味しかったな

「ああ、楽しみにしてるよ」

ボクがそう言えば花が開いたような笑顔を向けてくれるから、やっぱり彼女には癒されるし温かい気持ちになるし、またこうやって話せたらいいなと思ったんだ








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