おいかけて、つかまえる | ナノ


  04


「今日も応援しています!」
「ああ、ありがとう」

後輩の山田さんは委員会の関係で話すようになった

自転車にも興味を持ってくれたようで、よく練習を見に来てくれて

最初はぎこちなかったけど、本来人懐っこい性格だったようで最近はすっかり懐いてくれたのか会えば気さくに声をかけてくれる

「好かれてんな」
「ユキ、どう言うこと?」
「山田に、好かれてんなって事だよ」
「そんなんじゃないよ。懐いてくれているけどね」
「そーかぁ?山田も毎日毎日ご苦労なこった」
「自転車に興味持ってくれたんだって」
「はぁ?そんだけな訳ねぇだろ」

ユキは納得行かない顔をしているけど、好かれてるなんて…そんな訳じゃないと思うんだ

筋トレをしながらここ最近の事を思い出す

人懐っこい山田さんと話すのは楽しいし元気をもらっているなと笑みが零れる


好かれてる、ね…

もしユキが言っているのが恋愛的な意味合いなら、ユキや拓斗や真波達ならまだしもボクはありえないだろう

別に悪い意味でなく不思議とそう思ってしまうんだ



トレーニングも終わり飲み物を飲もうとしたら足りなくて
参ったな、予備も持ってきていない

だから仕方なく買いに行く事にした

自販機まで少し距離があるけどいいクールダウンになる
吹き抜ける風が心地いい

自販機で飲み物買い、戻ろうとしたら後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた

「泉田先輩!」

駆け寄ってきたのは山田さんだった

もう薄暗いのに何故ここにいるのだろう
普通だったらもうとっくに帰っている時間なのに

「遅くまでどうしたんだい?」
「あ、課題のプリント忘れちゃって…だから取りに来たんです」
「こんな時間に危ないじゃないか!」
「そうですよね、すみません」
「あ、怒ったわけじゃないよ!心配で…」

言い方が少しキツかったか
山田さんがシュンとした表情を浮かべるから少し焦った

「わかってます!大丈夫です!その、心配してくれてありがとうございます」

そう眉を下げてふにゃりとした笑顔で言う彼女が何だか頼りなくて

「寮まで送っていくよ」

思わずボクはそう口にしていた

女の子を1人で帰すには心配だからね
なんて心の中で言い訳しつつ

「わ、悪いですよ!練習中?ですよね!」
「もう終わったよ。さあ遅くなるから行こうか」
「ありがとうございます」

照れたように笑う山田さんが素直に可愛らしいな、と思った
それにしても、口数が少ないのは先程の言い方なんかを気にしているのだろうか

「あの!泉田先輩!」

いきなり腕を掴んで話しかけてくるから不覚にも驚いてしまった
だけどそれを見せないように返事をした

「なんだい?」
「先輩、ずっと思ってたんですけど…凄い筋肉ですよね」
「ああ。毎日トレーニングして鍛えているんだ。筋肉はね……」

思わず筋肉について語ってしまった
楽しそうにアレコレ聞いてくるからボクも思わず色々と話してしまった
興味深そうに真剣に聞いてくれるから話していて楽しい
こんなにこの話をしたのは初めてかもしれない

「凄い!前からずっと思ってたんです…!何度も見蕩れちゃったし…そんだけ努力して鍛え上げた身体だったんですね!凄いー!」
「あはは。何だか照れるな。でも嬉しいよ」
「あの…先輩、お願いがあるんですけど」
「なんだい?」

「あの、あの!触って良いですか!?」

「は!?何を?」
「筋肉…なんですけど……」

ああ、腕とかかな
そう思い「構わないよ」と軽く返事をした

「すごいー!凄いすごい!」
「ちょ、山田さん!?」

山田さんが触ったのは腕じゃなくて、胸で…
アンディとフランクが驚きのあまり無反応だ
いや、ボクも驚きで反応出来ていないけど

お腹や腕をあちこちペタペタと触られて流石に恥ずかしくなってきた

「凄い…凄くカッコイイですね!」

屈託のない笑顔にボクは結局何も言えなくなった

「ま、満足したかな?」
「はい!ありがとうございました!」

念願叶ったと嬉しそうに話す彼女を見て、これで良かったのかもしれない…と思うことにした

自転車や筋肉に興味を持ってくれるとか趣味が合うなと少し嬉しくなる

「あの、先輩」
「ん?」
「また、触らせてくれますか?」
「えっ!?」

また触りたいのか。不思議な子だな…
ボクは構わないけど彼女は大丈夫なのか?

しかしボクが断ったとして、彼女が他のカラダを鍛えてる奴に頼み込んだら?
ボクだから何もなくいられるけど、他のヤツだったら女の子相手に変な気を起こすかもしれない

ダメだ、それはいけない!

「ダメだよ」
「やっぱりダメですよね…」
「他のヤツに言っては」
「い、言わないですよ!泉田先輩のがいいんです」
「絶対に、約束してくれるかい?」
「はい!」
「それならいいよ。また触っても」

そう言えば山田さんはパアっと花開く様な笑顔で喜ぶから、これで良かったのかもしれない…と自分を納得させた


その一部始終をユキに話したら呆れられたのはまた別の話

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