おいかけて、つかまえる | ナノ


  24


悲しい夢を見た

それがどんな夢か覚えてはいないけど
悲しくて夢の中で泣いていたと思う
もしかしたら現実でも眠りながら涙を流していたかもしれない

だけどそのすぐ後、夢の中なのに不思議と匂いを感じて
それは好きな匂いだってすぐに感じたけれどなんだっけな
夢の中は冷たい所に居たはずなのに今度は暖かくなって
幸せなあたたかさ
こんな気持ちになったのは久しぶりかもしれない


いっその事夢から、眠りから覚めなかったらずっと幸せなままでいれるのかななんて夢なのに考えたりして

それでも夢の中でも結局浮かぶのは泉田先輩の顔だった

逃げ出した私の事なんて嫌いになったかな
会いたいのに会いたくない
好きだから、大好きだから辛い

それでもこの好きな匂いが泉田先輩の匂いだったな…と思い出して温もりも泉田先輩の温もりだと思い出せば夢でも縋り付きたくて

アオちゃん

と今度は泉田先輩の声まで聞こえて来た私はどれだけ泉田先輩が好きなんだろう

幸せな夢はずっと見ていたいのに、幸せな夢の時ほどすぐに起きてしまうのはなんで

目が覚めて目を開ければぼんやりと誰かがいるように感じて
あれ?まだ夢の中かな?
夢の中の私が夢から覚めた夢?なんて思考がしっかりしない

会いたいよ

「泉田先輩…」

と小さく呟けば「アオちゃん」と呼ばれて…
ん?あれ?もう一度ちゃんと見れば紛れもなく泉田先輩がいた

「ごめん、勝手に入って」

と気まずそうに目線を彷徨わせてる先輩がいて、私は思わず飛び起きた

「い、泉田先輩!?どうして?」
「キミの友達がここに連れてきてくれたんだ」
「そ、そうなんですね…」

待って!先輩が来る事なんてないと思っていた
だから部屋とか散らかってなかったかとか洗濯物はちゃんと片付けてあったか気になって周りを見回せば大丈夫だったからホッした

改めて泉田先輩に向き直る


男子禁制の女子寮に内緒で来るなんて本来の泉田先輩なら絶対しないのに、それでも来てくれたんだ
だからちゃんと話さなきゃ

ああ…やっぱり大好き。大好きすぎて苦しいよ
絶対に離れたくないから頑張って話さないと


話さなきゃいけないのに、私は我慢できず先輩の胸に飛び込んでしまった

アンディさんとフランクさん、こんにちは
私にどうか力を貸して下さいね
と心の中で話せば何となく大丈夫、頑張れと応援してくれた気がした

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目を覚ましたアオちゃんはとても慌てていて

いないはずのボクがいたからただ驚いただけだと思うけど、久しぶりにいつものアオちゃんを見た気がした

それだけでボクはとても胸が苦しくなって
どれだけ、あんな顔をさせて来たのだろうと思うと心苦しくて

向き直った時に早く、早く謝らないと…と思ったのにボクの胸に飛び込んできたアオちゃんに今度はボクが驚いた

フワッと髪の毛か何処からかいい匂いがして、いつでも抱きしめたいと思ってしまうアオちゃんの体温を感じて
アンディとフランクも相変わらず歓迎ムードで
それよりも早くちゃんと話せと彼らに言われた気がした

そう、ボクはただこうして甘い空間を味わいに来た訳ではない
ちゃんと、話さないと

1度ギュッと抱きしめてから改めて向き直る

「アオちゃん」

不安げに揺れる瞳
キミは今何を思っているのだろうね

「ごめんね」

ボクがそう言えばうっすらと涙を浮かべて
でもきっと流さないように堪えてる、そういう所が苦しい位に…

「キミのこと沢山傷つけてた。ずっと悲しい顔の理由もわからなくて…気付いた時には居てもたってもいられなくて突然来てしまって驚かせたのもごめん」

1度でも瞬きをしたら零れてしまう位に涙を溜めて

アオちゃんは何か言い淀んでいたけど、そっと手を握って「ちゃんと話して?聞かせて欲しい」と言えば

「好きです、泉田先輩が大好き」

そう言葉を発したと共に溢れる涙

「怖かったんです。櫻宮先輩…あんな美人の人に勝てる気がしなくて余裕がなくて」

取られちゃうんじゃないのかってずっと怖かった、と

「泉田先輩離れないで、嫌いにならないで、私だけを好きでいて…そんなそんな風にばかり考えて余裕のない自分がもっと嫌だしこんな私の事なんてきっと嫌になるんじゃないかって」

ああ、なんで
そこまで想って貰って嫌いになる事なんてある訳がないんだ
でも、そんな風な思いをさせたのはボクだ

「嫌いになる訳なんてないよ、アオちゃん。ボクが好きなのはずっとアオちゃんだけ。可愛いと思うのも抱きしめたいと思うのも、ボクだけを好きでいて欲しいと思うのも、全部キミだけなんだ」

だから、そんなに不安にさせた事を詫びればアオちゃんは首を振った

「もうその言葉だけで私は幸せすぎます。ホッとしました。ごめんなさい、自信がなくて」

「そんな事言ったらボクだってアオちゃんの事に関しては自信がないよ」

「え?何でですか?」

情けなくて話したくない事だけど…ボクも自信がなくてユキに嫉妬してた事を話した

「…情けないだろう?他のことに関しては自信を持っていられるのに…ボクもキミの事になると弱気になるんだ」

好きすぎるが故に、だよ

ボクがそう言えば「情けなくなんてないです」と首を振った

「だからと言ってユキと話すのを辞めるとかそんな事はしないで欲しい。今まで通りでいいんだ。わかってるんだ2人に何も無いことなんてちゃんと。なんでもスマートにこなすユキが羨ましかっただけなんだ。男の自分から見てもユキはかっこいいと思うから…」

「黒田先輩は確かに素敵ですよね。でも私はやっぱり泉田先輩が世界一かっこいいんです」

大好きなんです、泉田先輩大好き…と

改めて思う
何度も思ったし今日も何度も思ったけど
誰に好かれても、ボクが好きでいて欲しいと心底思うのはアオちゃんだけなんだ

涙を拭って頬に手を添えれば擽ったそうに笑うアオちゃんが堪らなく可愛くて

「もう1度言わせて。ボクが好きなのはアオちゃんだけだし好きでいて欲しいのはアオちゃんだけ。不安にさせてごめん」

「私も…泉田先輩が好きでいてくれたらそれでもいいんです。大好き」

こんなに、こんなにも可愛い女の子は知らない
全部が可愛くて堪らない

両手で頬を包めばアオちゃんは目を閉じたから…
そっと口付けたらその柔らかい唇とアオちゃんの温もりにくらくらする

不安だった気持ちは何処に行ったのか
単純な自分に苦笑い

唇が離れた時、嬉しそうに笑うアオちゃんを見てどうしようもない位に愛おしさが込み上げてきて、ボクはそのまま思い切り抱きしめた





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