おいかけて、つかまえる | ナノ


  23


3年の教師が全員会議だという事で、3年の全てのクラスが自習になった

騒ぐ者もいれば違う教室に行く者もいて、授業中なのにいつもより騒がしい

それでもボクはあんまり関係なくて、黙々と課題を解いていた

「泉田くん」
「なんだい?櫻宮さん」
「ここの問題解けた?ちょっとわからなくて」
「櫻宮さんでも解けないとかあるんだね。うん、解けたよ」
「教えて貰っていいかな?」
「構わないよ」

頭のいい櫻宮さんだから珍しいと思いながら問題の解き方を教える
こういう風に最近はよく聞いてくるなと思いつつ係が同じだから打ち解けてくれたのかな、なんて思ってたんだけど

ドアが開く音がして視線だけ向ければユキがいて
ハァ…と大きなため息をついてボクの方に向かってきた

「ユキ、どうしたの?」
「どうしたの?じゃねーよ!ったく…」

空き教室にアオがいる
ちゃんと話せ、話を聞いてこい

と…何だろう

なんでユキが言うの
なんでユキが知ってるの

そう言葉が出そうだったけど、ユキの顔を見たら何となく早く行かなきゃ行けないと思って

「櫻宮さん、ごめん。ちょっと席を外すね。これ見たら問題解けると思うから」

早く行けと言うユキにすまないと一言告げてから教室を出た

授業中なのに、どうしてそんな所にいるんだろう
何かあったのかな、ユキがあんな風に言ってたし

はぁ…なんでユキなんだろう

色々考えつつ急いで行ってドアを開ければアオちゃんがいて

「アオちゃん…!」
「先輩」

そうこちらを振り向いたアオちゃんは弱々しく笑った

「ユキがアオちゃんと話せって…ん?」

目が赤くて少し腫れてて、それが気になった
そっと目尻に触れて泣いたの?って聞けば、またアオちゃんの目に涙の膜が張ったと思えば溢れ出して

苦しそうに泣くアオちゃんが何でそんな風に泣くかわからなくて
聞いても泣いてるだけで、何も言わないからもどかしくて

ユキには話したんでしょ
なのにボクにはなんで言えないの

八つ当たりだとわかってる
泣いてるアオちゃんにする態度じゃないのも
だけどちゃんと何かあったらボクに話して欲しかった
なのに…

余裕が無い自分が情けなくてため息が出そう

急に震えたスマホ
パッと見れば櫻宮さんで、何かクラスであったのかもしれないと一応アオちゃんに軽く断りを入れて電話に出た


「ああ櫻宮さん」
「泉田くん、課題ついでに一緒に出しとくけどいい?」

櫻宮さんに返事をしようと思った時、アオちゃんがふっと視界に入って
凄く顔色が悪くて、心なしか呼吸が浅いのが気になった

さっさと通話を終わらせようと思ったのに、その前にアオちゃんは教室から飛び出していってしまった

「アオちゃん!?」

そう呼んだのにこっちを振り返ることもなく、そのまま行ってしまった

「泉田くん?」
「ああ、ごめん。うん、今から教室に戻るから」
「じゃあ課題出さずに待ってるね」
「うん」

何で追いかけなかったんだろうと思ったけど
後でちゃんと話そうと後回しにしたのがいけなかった

教室に戻れば櫻宮さんが「彼女さん?」って聞くから、うんって頷けば櫻宮さんは小さくため息をついた

「泉田くんの彼女さん可愛らしいけど…泉田くんにはちょっと幼すぎる気がするな」
「どういうこと?」
「何がって訳じゃないけど…泉田くん、最近彼女さんの事になると顔が沈んでるから…」
「そうかな。そんな事ないと思うけど…」
「黒田くんと仲良いよね、彼女さん。よく一緒の所見かけるし」
「ユキと?ああまぁ、お互い先輩後輩として仲良くしてるみたいだから」
「そう?凄く楽しそうに笑ってるよ、彼女さん」

泉田くんと会った時はそうじゃないのに、なんでだろうね

なんて言うから…他人から見てもそう見えたのかと思えば苦しくなった

「もっと泉田くんは精神的に大人な人が似合うと思うけど」
「え?」
「そう言う顔させないような人。例えば私だったらそんな顔させないのにな」

何を言ってるのか理解出来なくて言葉に詰まる

「なんてね?ふふ。でも本当に色々ちゃんと考えた方がいいよ」
「何を…?」
「そこまでは私はわかんないけど…女の子はあの子だけじゃないよ」

何か言い返そうと思ったのに、チャイムが鳴って有耶無耶になってしまった
一体何が言いたかったんだろう

それでもボクはやっぱりアオちゃんだけだと思う
だけどアオちゃんはどうだろう?

ボクより…ボクより魅力的な人は沢山いるから

それからLINEを送っても既読はつかないし、電話に出てくれないし心配だったけどそのまま部活に行って…

部活終わりにスマホを見ても相変わらず既読がついてなくて心配になった

「おい塔一郎」
「ああ、ユキ」
「ちゃんと話せたのかよ」

真っ直ぐボクの目を見てそう問うユキにボクは言葉に詰まった
だけど言えと言わんばかりの圧力にボクは今日あった出来事の流れを話した

そしたらユキは頭をかいて大きな溜息をついたと思ったら思いっきり肩を叩かれた

「っつーかちゃんと話し合えってあれ程」
「ユキは何か聞いてるの?」
「はぁ!?知るかよ気になるなら自分で聞け!アオもちゃんと話せよったく」
「ユキには話せるのに…」

ボクが思わず呟けばユキに思いっきり睨まれた

「お前、オレには話すのにとか本気で思ってんのか?そこで変な嫉妬心抱かれたらこっちは迷惑極まりないっつーの」
「でも実際…」
「実際も何も話すところが無かっただけの話だろ!?知るかよンなの。鈍感なお前に言っといてやる。櫻宮お前に惚れてんぞ。アオはそれに気づいてる。もうここまで言ったらわかるな?後は自分で考えろ!ったく…」


ちゃんと考えて解決しろよばーかと、解決するまで話は聞かないからな!と言ってユキは部室を後にした

頭を鈍器で殴られたような気分だった

櫻宮さんが?まさか

だけど今日のあの発言…いやでもまさか
それよりもアオちゃんは気づいてたって…

そう言えば顔が沈んだ時はいつも櫻宮さんといた時だったかもしれない

そう考えたら申し訳なさでいっぱいになって
いてもたってもいられなくてボクはその場から駆け出した

電話は電源が入ってないから出ない
だから会えるわけが無いのにボクはどうしたいんだろう
女子寮の前に来たものの、入れる訳でもないのにどうしたものか
生憎、他の1年の女子に知り合いもいないし

途方に暮れていたらアオちゃんの友達だと言う子に会った

体調不良でアオちゃんは早退したと
だからお見舞いですか!?って言われて
ボクが答える前に手を引かれて「こっちです」と連れていかれた先はアオちゃんの部屋だった

寮母さん達にバレない入り方だとその子は言っていた
皆こうして中に人を入れてると
それはいけないだろう…と思いつつ入ってしまったボクも同じ、同罪だ
見つかったらどうしよう、なんて思ったけど未だかつて見つかった者はいないらしい
それよりも結局アオちゃんに会いたくて自分の意思でルール違反をしたからもう他人の事は何も言うまい

「帰りは窓から出た方が確実ですよ」と教えてくれたアオちゃんの友達にお礼を言って

初めて入るアオちゃんの部屋に緊張した

声をかけたけど返事がなくてそっと覗けば眠っているみたいだ
布団も被らずに倒れ込んだような格好でまた足を投げ出して…って自室だから彼女の自由だろう
それよりもボクが不法侵入だから…
無防備な姿を見てしまった事に罪悪感を感じた


泣いた後ってのがわかる、頬に残る涙の乾いた跡
穏やかと言い難い寝顔

アオちゃんの傍に跪いてそっと頬に触れた

「ごめんね、アオちゃん」

こんな顔をさせてしまって
目を覚ましたらちゃんと謝らせて
そしてこんなボクに呆れて愛想を尽かさないで…と思いながらアオちゃんの手を握って起きるのを待つことにしたんだ

門限まで時間があるし、門限が過ぎてもきっとユキがフォローしてくれてるだろう
彼はそこら辺抜かりないし頼りになるから
結局ユキには世話になりっぱなしだな

なのにこんなに嫉妬して…

自分の情けなさに心底呆れる


ちゃんとユキにも報告出来るように、アオちゃんの気持ちをきちんと聞いて話をしないと
そしてアオちゃんが不安だと言うなら、不安が消えるまできちんと話して気持ちを伝えようと色々と考えを巡らせていた




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