おいかけて、つかまえる | ナノ


  18


初めてコイツを見た時に思ったのは「何だ?このちんちくりんは」だった

そん時はそれで終わってすぐに忘れちまったけど
よく居るうるせぇギャラリーの1人としか思ってなかったし

そいつをトレ室の周辺でチョロチョロ見かける事が増えたが誰も何も言わねぇのは何故だろうと思ってた
無害そうな顔してるからか?
しかし、インハイ前の大事なこの時期に邪魔する奴は誰が何と言おうと許さねえ

だからオレは声をかけたんだ

そしたら泉田さんと知り合いだった
明らかに1年のコイツが泉田さんの知り合いとは思わなかったが、目を見ればウソをついていないのがわかった

オレの事も知っていたようだが妖怪だとかぬかすコイツは失礼なヤツだと思う

「妖怪じゃねぇ!怪道!だ!怪道!銅橋正清だ!覚えとけ!!」
「あ!間違えた!すみません、すみません!」
「まぁいいけどよ…なんだ、お前は泉田さんとはどういう知り合」

「銅橋とアオじゃねぇか」
「黒田先輩!」
「黒田さん!!!」

なんだ!?コイツ、黒田さんとも知り合いか…?
黒田さんがこんな感じで女子と絡んでるイメージがないから不思議な気分だ

「珍しい組み合わせだな。銅橋もアオも塔一郎に用だろ」
「はい!今日の外周のタイムの記録を持ってきました」
「私は待ってるだけです」
「んだよ、別に中に入ればいいだろ」

オレは用事があるから普通に中に入るが、こいつも?
黒田さん、いいのかよ…知り合いと言えど部外者を…

まぁ練習は済んでるからいいのか?
別に部外者が入ってはいけないと言う決まりもないのか?

疑問に思うがまぁいい
オレは取り敢えず泉田さんに用事があるからな

オレが先に泉田さんへの用事を済ませた後に黒田さんが入ってきた

「塔一郎、銅橋、話は終わったか?」
「ああ、ユキ。銅橋との話は終わったよ。どうしたんだい?」
「アオが外に居たから連れてきたんだよ」
「アオちゃん!?」

泉田さんの顔が変わって驚いた
見たことねぇ表情をしてるじゃねえか!!

「入って来いよ、アオ」
「いいですか…??こんにちは。お疲れ様です、泉田先輩」
「アオちゃん!待っててくれたの?」
「はい!中に入るつもりはなかったんですけど…」
「そうだったんだ。別に今なら構わないのに」
「でも練習中には変わらないし」


2人の会話を見ながら思う
色々そういう事に疎いオレでも何となくわかる

しかし違う気もする…だってよ、もっとこう…
何となく黒田さんを見たらオレの言いたい事がわかったのか

「ああ、塔一郎の彼女な、アイツ」

って言った

「か、彼女!?あれが…??」

泉田さんに彼女が出来たという話は聞いたことがあるが別に詳しくは聞いてねえ
まさか、まさかあのちんちくりんとは思わないだろ、普通

しかしまた泉田さんを見ればとても幸せそうな顔をしていて…納得

ちんちくりん…じゃなくて山田と言ったか
あいつもとても楽しそうに話してる

「花でも飛んでそうだろ」

黒田さんが苦笑いで二人を指さす
確かに…とオレは納得してしまった


それから山田の存在をちゃんと認識したからか、更に見かける事が増えた

朝練も見に来てるし練習後、確かに泉田さんとよく話してる
練習中、邪魔な所に居ねえし煩くもしてねえから気づかなかった

それにしても泉田さん、練習中の時からは想像出来ねえ顔してるな

あんな顔すんだな…

「泉田先輩、今日は筋トレ指導の日ですね!楽しみ〜」
「ああそうだね。うん、今日も頑張ろうね」
「はい!ちゃんと毎日やってるからだいぶ出来るようになりましたよ」
「努力してて偉いね。今日ちゃんと出来てたら次のステップに進もうかなと思ってるんだけど」
「はい!次に進めるように頑張ります」
「その心意気は偉いね」

そう言って山田の頭を撫でる泉田さんの顔は本当に見たこと無い位優しい顔だった

オレは驚いて声も出なかったが、黒田さんは慣れた顔してるし葦木場さんに至っては「今日も仲良しさんだねぇ」と頬に手を当てて呟いてた…なんだコレ

棒立ちのオレに気づいたのか

「なんだい、銅橋」

と声をかけてきた時はいつもの泉田さんだったから、オレは幻を見ていたのかもしれない


それにしても何で山田なんだ?と疑問だった
泉田さんと付き合うにしてはガキ過ぎねえか?

そんな風に思いつつ、数日が過ぎたある日の午後

「銅橋先輩!」
「あ?あー、ちんちく…じゃねぇ山田か」
「ちんちく??」
「いや!何でもねえ」
「そうですか!」

ニコリと笑うこいつの顔は見てると毒気が抜けるそんな感じがした

話してみたら色々と良い奴だった
自転車についても理解があるようだし、泉田さんと筋トレしてる位だから筋肉の事も興味があるようだ

一番はこいつの話聞いてると泉田さんへの想いが伝わってきて

見た目で人を判断してはいけねえと思った
それはオレが散々感じてる事なのに自分がそんな風な目で見てどうする!


「泉田先輩は本当に凄いんですねー!」
「あったりまえだろ!あの人はすげぇんだ」
「凄く努力家ですよね、本当に尊敬します」
「まぁな、本当に毎日努力を怠らない。人にも厳しいが自分に一番厳しい人だ。本当に頭が上がらねぇ」
「本当に…凄い…」

2人で泉田さんの話しで盛り上がってしまった
…そういや、女子で物怖じせずにオレと話せる奴は珍しいな、ましてや後輩

けど、なんだ…聞き上手なのか何なのか話しやすいし不思議なヤツだ

何となく、泉田さんはコイツがココロの休息の場所なんじゃねぇかって柄にもない事が頭に浮かんで

目が合ってニッと笑われた時に思った

あー、色々わからないでもない…と

その日から山田はオレの中で勝手に良い奴認定をしたんだ
いや、別に悪い印象はなかったけどよ


それにしても…

「イチ!アブ!」
「にー!アブ!」
「サン!アブ!」

なんだあれは…
泉田さんはともかく山田も一緒になって何やってるんだ…

アブ、アブとお互い掛け声出しての筋トレに、流石のオレでも戸惑いを隠せねぇ

「アオちゃん!あと少しだ!頑張ろう!アブ!!」
「はい!!!アブ!」


いやいやいや!黒田さん!!なんで平気な顔して筋トレしてるんスか!?
葦木場さんも「今日のあの二人のクラッシックはこれかなぁ」とか何とか鼻歌歌ってるし!!


呆然と立ち尽くしていたら黒田さんに肩を叩かれた

「銅橋、さっさと慣れる事だな」

悟ったような顔で言う黒田さんの顔をオレは暫く忘れることが出来なかった

まぁそんな風景を何度か見たらすぐ慣れちまったから人間の順応力はスゲエと心底思ったのだった


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