おいかけて、つかまえる | ナノ


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なんとなく、自分の気持ちに気づいた時から色々とおかしいのは自覚している

ふとした時に目に浮かぶのは山田さんの顔ばかりで

今日も見に来てくれるかと気になるし、話せるかなとかLINE来るかなとか、気が抜けた時にそんな事ばかり頭を過ぎって困り者だ


ああ、あれは…ユキと山田さんだ
部室横のカゲで座って話してる

相変わらず仲良いな
凄く楽しそう

それにしても、ボクといる時とは全然違う気がする
なんだかユキといる時はくだけてる感じ

何故かモヤモヤして胸が締め付けられる

ボクといる時も楽しそうにしてくれてるけど、でも……

考えてはいけない
考えないようにしないと

「塔一郎、やっと来たか」

ボクに気づいたユキは立ち上がって山田さんに挨拶をしてそのまま部室に入っていった

「泉田先輩お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」

上手く笑えてる自信がなくて、なんとなく目が合わせられなかった

「大丈夫ですか?調子悪いとか…」
「そんな事ないよ。ボク、まだやる事あるから」
「あ、筋トレですか?」
「いや、今日は走ってくるよ」

そう言ってボクは山田さんの顔が見れないまま、彼女に背を向けてそのまま自転車に乗った


ホントはトレーニングするつもりだったし、山田さんも誘おうかななんて思ってたのに、頭を冷やしたくて自転車に乗るとかどうかしてる

そう言えば山田さん何か言いかけてたな
それなのにボクは知らないふりをして……
情けないなと自嘲する


恋心とはとても厄介で、自覚なんてしなければ良かったのではないか
ボクはやる事沢山あるのに、そんな暇はないのに

……ああそれも言い訳さ
自分の中で上手くいってる気がしないから、ただ逃げてるだけ

ほかの部員が恋してもボクはやる事が沢山あるんだからやめろなんて思わないし
それで奮起できるならいいんじゃないかと背中を押したことだってあるのに


なのに今のボクは何だ
ただ逃げて、まっすぐ気持ちに向き合ってなくて


ポツリと腕に落ちてきたのは雨粒で
参ったな、降ってきたか
今日の天気は雨じゃなかったハズなのに

仕方がないから学校へと戻る
だけど雨足はどんどん強くなって

雨に濡れる不快感もあるけれど、これはもう頭を冷やせと言われてるような気がして心の中で苦笑いをした


「泉田先輩…!」

校門の前にいたのは山田さんで
雨に濡れて……

「山田さん!濡れてるじゃないか!なんで、なんでこんな所にいるの?帰ってなかったのかい?」

「泉田先輩待ってて、そしたら雨降ってきちゃって」

「そんなの、待つにしてももっと場所とかあるじゃないか」

少しキツめに言えば山田さんは涙目になって、ごめんなさいと呟いて…

「先輩濡れちゃうと思って傘を」
「もう濡れてるから傘も意味無いよ。ん?傘?」

山田さんが握りしめてるのは折りたたみ傘で
なんでそれに入ってなかったの
入って待ってたら濡れなかったじゃないか

ボクがそういえば「必死でつい…」と下を向く


ボクが少しでも濡れないようにと考えてくれて取った行動だったの?
傘さして待ってればいいのに頭が回らない位必死で?

ああ、なんなんだこの子は

制服も濡れてベタベタじゃないか
いつもキラキラしてる髪の毛も濡れて、毛先から水が滴ってて


「ごめん」
「え?」
「ボクを待っててくれたのに、酷い言い方をした」
「あ、違うんです、仰る通り傘さして待ってれば良かったのに…バカですね、ごめんなさい」

バカはボクだよ

「泉田先輩!?」

山田さんの頬に触れたらすっかり冷えてしまってて
ここまでして待っててくれたのに

「とりあえず、部室に行こう」

自転車を片付けて、後ろを振り向けばちゃんとついてきてくれててホッとする

そのまま部室に山田さんも招き入れて、タオルを2枚取ると一枚を山田さんの頭に被せて拭いた

「だめ、です!先輩が先にちゃんと拭いて下さい…!風邪ひいたら大変です!」

ってタオルをボクから奪い取って、ボクの頭を拭くんだ

「そんなの、これ位で風邪なんてひかないよ。それよりも山田さんの方が心配だよボクは」
「私は、体は丈夫なので平気です」
「でも油断は禁物だよ、だってまだこんなに冷たい」

山田さんの両手を取って握るとまだ手は冷たくて

「泉田先輩…ずるい…」
「ん?何か言った?」
「何でもないです」
「そう?あ、これ着て。まだ今日着てないから綺麗だと思う」

ジャージを渡すと悪いと遠慮してたけど、そんな濡れた制服姿では帰せないし

一旦ボクは部室を出て、山田さんが着替えるのを待つ

着替え終わったらしく呼ばれてまた部室に入ればジャージ姿の山田さんがいて
いや、貸したから当たり前なんだけどそれにしても…

好きな子が自分のジャージを着ているのって何だかぐっとくるものがある
……って何考えてるんだ僕は

なのに山田さんは人の気も知らないで
「泉田先輩の匂いがする〜」
なんて可愛い顔して笑うんだ

「洗って返しますね」
「気を使わなくていいよ」
「いやそんな事…明日持っていきますね」
「いつでもいいよ。あ、そうだ明日はこの間みたいに過ごさない?」
「へ?」
「一緒にお昼食べて…放課後」
「トレーニングですか!?」
「そう。どうかな?」

ボクがそう聞けば、嬉しそうにしか見えない笑顔で「ご一緒したいです」なんて言うから思わず頬が緩む

「明日はお弁当作ってきますね!」

って拳を握りながら言う彼女が可笑しくて可愛くて

ありがとう、と思わず頭を撫でたら

「先輩、最近それ好きですよね」

なんてちょっと拗ねたような怒ったような顔で睨むから

嫌だったらごめんと言ったらその逆です、だって

「先輩、最近更にかっこいいからずるい」

なんて言うもんだからボクは何も言えなくなった
好きな子にそんな風に言われて嬉しくない訳が無い
ただ、どんな顔していいのかわからない所がボクのダメな所

その後は相合傘…ではなくて
ボクも折りたたみ傘は持ってるし
普通に傘さして、喋りながら帰った

「送って貰っちゃって…ありがとうございました」
「ううん。今日はありがとう。また明日」
「はい!また明日!」

楽しみにしてますって笑顔で手を振る山田さんがやっぱり好きで

明日は楽しみで仕方が無い自分がいた




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