おいかけて、つかまえる | ナノ


  09


練習中、やたら気合い入ってるヤツがひとり

いや、塔一郎はいつも真面目だし気合いが入っていない日はねぇが今日は気合いの入り方が違う…気がする
まぁそんな事はオレ位しかわかんねぇだろうが

「アブアブアブアブ!ブアー!」

外走ってて一番に着いたのは塔一郎で、その後にオレが続く

塔一郎のアレにドン引いてるギャラリーの中に、1人だけうっとりと塔一郎を見つめてるヤツがいる

そう、山田だ


塔一郎は絶対いつも、その時山田の方を見るんだ
多分、もう無意識

そして互いに目を合わせて微笑み合ってるのが最近はオレの中での日常になりつつある

あの2人の間には花が飛んでそうなオーラ放ってて
あん時だけ、あの一瞬だけ塔一郎が気を抜く瞬間で実にわかり易い

しかしそんなオーラを放っててコイツら付き合ってないんだぜ
本当に、お互いビックリする位に想い合ってるのに噛み合ってねぇし鈍感なのか何なのかこっちが見ててもどかしくなる

「んだよ、塔一郎。今日は絶好調だな」
「そう?いつもと変わらないよ」

なーにが「いつもと変わらないよ」だ

「今日はこの後山田と約束してるんだって?」
「ああ。…ところでユキ、何で知ってるの?山田さんから聞いた?」

塔一郎の声のトーンが変わる
いっちょ前に嫉妬してやがる
本人は自覚がないからややこしい

「ああ、部活前にバッタリ合ったんだよ。楽しみだって言ってたぞ」
「楽しみ…そうか。うん、今日は色々と筋トレをね」

筋トレ……ってどういう事だ
と、思いながら今日はオレも元々トレーニングするつもりだったから一緒にトレ室に来たわけだけど……


「泉田先輩、こうですか?」
「うん、そう。はいそこで止めて三秒、1、2、3…」

塔一郎は自分のトレーニングを先に終わらせてから山田に筋トレを教えていた

なんでも塔一郎の筋肉を触ってから自分のカラダのたるみ具合が気になったそうだ
別に山田は太ってねーのに女子はよくわかんねぇ

そんで塔一郎に相談した所、塔一郎が筋トレ指導をする事になったらしい

……だから最近夜な夜な色々考えていたのか

てっきり1年の部員にメニュー作ってると思ってた
まぁそれにしては温すぎるメニューだと思ってたから、納得

それにしても2人の距離近すぎんだろ

あれで照れない塔一郎がスゲェ
多分、指導に夢中になって気づいてねぇな

素に戻ったら多分恥ずかしさでのたうち回る位の近さなのに

ホント、あの2人は何処かズレてるつーか

オレは小さくため息をつくが2人はそんな事気づきもしない


……それにしても、やっぱ気になるだろ

「泉田先輩、どこに力入れたらいいですか?」
「うん、そうだね。この動作の時はここら辺」

腹筋を鍛えるトレーニングで力の入れ方がわからないらしい山田は塔一郎に聞いていて
そして塔一郎は自分の腹を指さしてこの辺だと教えてる

そしてここですか?とさり気なく塔一郎の腹に触れる山田
しかし、筋トレの事で頭がいっぱいな塔一郎は全然動揺もせず真面目な顔してやがる

「うん、その辺意識してもう1度頑張ろう」
「はい!」
「じゃあ行くよ…うん、そう!そんな感じ!その体制のまま維持!」

そして塔一郎はとんでもない事をするんだ

「こうでしょうか?」
「うん…山田さん、ここだよ、ここを意識して?」

塔一郎がここだって触ったのは自分の腹じゃなくて山田の腹

いや、きっと純粋な気持ちで下心なんてなく指導してるのはわかる

が!好意を寄せてる相手によくもまあ……
無自覚怖すぎんだろ

「は、い…こうです、か?」

山田も山田で必死かよ…
2人とも真面目だな……

「そう、うん!ちゃんと力入ってる!偉い」
「やった!」
「じゃああと5回、頑張れる?」
「頑張ります!」

偉い!と頭を撫でる塔一郎はオレがいる事なんてすっかり忘れているんじゃないか…

ったく……

それからもちかーい距離感でずっとトレーニングしてたよアイツら……
本当に、何なんだあのお花畑2人は


で、筋トレが終わったらしくクールダウンのストレッチを教えていた
その時に塔一郎はやっと脳内が正常化してきたらしく…山田の背中を押すときは顔を真っ赤にしていた

遅すぎんだろ……

しかし最後まできちんとやり遂げたいタイプの塔一郎はその感情を抑え込んでいるのがよく分かる

本当に真面目だな…とため息をつけば今度は気づいたのか塔一郎に睨まれた

オレに八つ当たりすんなよ…

「はい、今日はこれでおしまい」
「ありがとうございました!」
「やり方覚えた?」
「はい!」
「じゃあなるべく続けるようにね」
「わかりました!……先輩」
「なんだい?」
「また、時々指導してくれますか?」

山田がんな事言うから塔一郎のヤツまーた顔真っ赤にしてやがる
面白ぇ

「あ、ああ。構わないよ」
「良かったぁ!時々見てもらわないと間違ってても気づけないし…助かります」
「わからなければ何時でも聞いて」
「はい!ありがとうございます!」

……まぁあーやって頼まれたら断れねぇわな



その夜塔一郎と今日の事を話した

「それにしても夜な夜な考えてたの山田の筋トレメニューだったんだな。通りでぬるいと思った」
「まあね。初心者の女の子向けに考えたモノだし。それでも少しキツかったかなって思うんだけど」
「まぁついていけてたし大丈夫なんじゃねーの?」
「そう思う?なら良かったよ」
「それしにてもよー、オマエよくあんな山田にベタベタ触れてスゲェと思ったぜ」

オレがそう言えば塔一郎は目を見開いて固まる

それでもオレはお構い無しに言うけどな
本当に無自覚過ぎるコイツにはいい薬だろ

「腹とか普通触れねーだろ」
「そ、そ、そ、そんなっ!そうだった…触ったかもしれない……あの時はボクも必死で……」

下心なんてなかったんだ!とか、セクハラ行為だと思われたらどうしようとか、頭を抱えて狼狽える塔一郎にニガ笑い

「き、嫌われてないかな!?」
「いや、それはねーだろ」
「何を根拠にそう言えるの!?」

仕方なくオレは自分のスマホを操作しラインを開く

「ほらよ」

今日は泉田先輩と筋トレ出来て幸せでした!泉田先輩の教え方凄く上手いし、相変わらずかっこよくてずっとドキドキしましたよ〜また教えてくれるって約束して貰えて嬉しかったです!もう今日はぐっすり眠れそう…泉田先輩疲れてそうですか?大丈夫そうならラインしてもいいかなぁ?泉田先輩の様子教えて下さい…

悪ぃな山田

とあんまり思ってはないけど。オレは塔一郎に山田から来たライン見せてやった

そしたら塔一郎は食い入るように画面を見つめる

「ユキ、ありがとう!取り敢えずボク、山田さんにラインしてくるね!」

そう言うと走って自室に帰っていった

その夜、2人はどんなやり取りをしたのか知らねぇけど

次の日、朝から盛大にお花畑オーラ放ってた2人を見て幸せそうで何よりだと安堵した


……まぁケド
それでも付き合っていない事実にオレはまた頭を抱える日々が続くのだった

あーもどかしい!



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