あの朝の自転車の彼、東堂くんはまさかの同級生で、おまけにクラスも同じだった

あの出会いから半月程がたつ

私もやっと慣れて来て、友達も何人か出来た
その時に色々な話を聞かせて貰ったんだけど、自転車競技部は凄く強くておまけに部員は人気のある人が多いらしい

東堂くんもその1人らしい、というか三年生では一番人気らしくて
何だかファンクラブもあるとかないとかそんなレベルの有名人だそうだ

そんな彼に一目惚れなんて、なんて事を!
と頭を抱えたのは好きになってすぐの事だった

かっこよくて、優しくて気さくな彼はモテるのは当たり前だろう

私もその中の1人になってしまった訳で

ファンとしての憧れの好きじゃなくて、恋心の好きだからタチが悪い…
絶望感しかなくて、泣きそうだ

そんな人気者の彼と、どうこうなるなんて無理な話だろう

この淡い恋は叶いそうもないと心に無理矢理蓋をしてしまおうと何度も思ったけれど、彼を見るとどうしてもそんな事が出来なくて

あの笑顔でおはようと言われたら、話しかけられたら…
心に蓋をしかけたところで簡単にその蓋は開いてどこかに飛んでいってしまう

でも私もあのファンの女の子の1人の扱いなんだろうな…と思うと後からくる悲しさに心が痛くて

緊張とか色んな感情が混ざって私は自分から東堂くんに話しかけられないでいた
話しかけられたら話す、それしか出来ない自分が情けない

恋をした事は何度かあるけれど、こんな気持ちになったのは初めてで

でもまだ東堂くんの事、色々知っている訳じゃないのにこんなに苦しい位好きなのは、彼は見た目も本当に素晴らしく良いけれど、だけどそれだけじゃない沢山の魅力があるからだろう
醸し出すオーラや仕草の一つひとつでも絵になるし

そりゃ人気あるわ…
私は何度目かわからない心の挫折を味わっていた

*****

友達とお弁当を食べる約束をしているから、チャイムがなって友達の席に向かう
東堂くんの席の隣を通る、それだけで緊張して変な顔をしていないか不安になる

見ないようにしていたのに、思わず目があう

恋心がバレたくないから何食わぬ顔でいたいのにいつもきっと無理で

優しい顔で会釈してくれた東堂くんに私もぎこちないながらも笑顔を返した

「山田さん、今日も弁当か?」

「え、あ、うんそう!東堂くんは?」

「オレは学食だな。山田さんは学食は行かないのか?」

「うん、まだ行った事ないや。行ってみたいんだけどね」

「結構女子の好きそうなメニューもあるし美味いぞ。また行ってみるといい」

「そうなんだ!今度行ってみる」

「ああ。その時はオレがオススメを紹介するよ」

その言葉に思考が停止する

ただの話の流れでの言葉なのに

何てない一言なのに、ちょっとした言葉なのに
なのに、食堂に行く時は案内でもしてくれそうな発言に嬉しくてそれだけで手が熱くなるのがわかる

「うん、その時はよろしくね!」

「ああ。任せてくれ。ではな」

東堂くんはニッと笑って私の肩をポンと軽く叩いて教室を後にした

その笑顔反則だよ…
手に集まっていた熱が肩や頬にまで集まる

「あつい…」

私は自分のカラダの熱が早く冷めるように、ゆっくり深呼吸をした




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