13 秘密の合図の送り方


「じゃあまた明日ね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。また明日。あ、アオ」
「ん?」
「好きだよ」
「え、あ、わ、私も…好き、ですよ」
「ああ。最後はこれを聞かねばな。…今度こそおやすみ」

ほぼ毎日欠かさないおやすみコール
1日の最後を尽八くんの声で締め括る幸福感

耳が擽ったい…けど心はあたたかい


尽八くんとはひっそりと愛を育んでるけれど、こうやってちゃんと寂しくないようにいつも大切にしてくれている

愛の言葉も惜しみなくくれる彼は前世は本当にどこかの王子様だったのではないかと思う
見た目も性格も全部ひっくるめて


尽八くんの告白の返事が変わったと大騒ぎになったのは数日前

今までは自転車を理由に断っていたのに

「好きな子がいる」

と言って断ったらしくそれが一瞬で広まりあの時は正しく阿鼻叫喚だった

きっと彼の事だから徐々に行くつもりなんだ
いずれ私との付き合いを隠さずにしていく為に

ちゃんと聞いたことはないけど、多分そんな気がする

彼らしいな

それはきっと全部私の為だと思うと何とも言えない気持ちになる

好きだなぁ…

さっきの尽八くんの声を思い返しながら私は眠りについた



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尽八くんの部活がないテスト一週間前
やっとゆっくりと2人で居られる時間が出来た

と言っても私達は真面目に勉強して過ごしてるんだけど

この間見つけた半個室になってるカフェで過ごす事が多いんだけど、私からしたら勉強メインと言えどれっきとしたデートだから嬉しい

そこに行く前に尽八くんが消しゴムの予備が欲しいからと文房具を見に来ている

何となくシャーペンを見ていたら、あるシャーペンが目に入る

この白さ具合が尽八くんの自転車みたい…と、直感で思ったから
白のシャーペンなんて沢山あるけどでもなんとなく、これ!って思ったら欲しくなるもので

「何見ているんだ?アオ」

尽八くんが後ろから覗き込んでくるから驚いた

あれ?買い物終わったのかな?

「あ、これ買おうかなーって。なんか、尽八くんの自転車の色みたいだから」

私がそう言ったら、尽八くんが目を丸くする
そして私の持ってるシャーペンを見ると、同じ種類の黒色のシャーペンを手に取った

「あれ、買うの?」
「ああ、シャーペンもそろそろ欲しかったんでな」
「そっか、お揃いだね」
「あ、ああ!そうだな!」

照れくさいのかちょっと頬を染めた尽八くんが可愛い
あんまり見られたくなかったようで「あんまり見ないでくれ」って言われてしまい私は堪えきれず小さく笑った


ペアリングやネックレスじゃなくて、たかがシャーペンでもお揃いってだけで私の心は踊る

早速、勉強の時にお互い使ったけど何だか同じものを使うのって擽ったい気持ちになるね


授業中も尽八くんはあのシャーペンを使っていて、私も使ってて

バレないかなってドキドキしながらも、文房具なんて似たり寄ったりだから気付かれる事もないだろう

でもやっぱり同じ空間で色違いと言えど同じものを使っているのってなんだかいいなって
2人だけの秘密、みたいで何とも言えない気持ちになる

でもやっぱり尽八くんは私の彼氏だよ!って言いたくなる事もあるし
堂々と手繋いで歩きたいし、気にせず自転車も見に行きたい

たまたま尽八くんが人気者だっただけなのに何で…
って時々嫌な風に考えちゃう自分に嫌悪する

ちゃんとわかってる事なのに
尽八くんはちゃんと考えて行動してくれてるのに

ちゃんと幸せなのに、どんだけ欲張りなんだろう

尽八くんが恋しいな

同じ教室にいるのに、ほんの数歩先にいるのに
近くて、遠い

ふと、尽八くんと目があった
私はちょっとぎこちなくなったけど何とか笑みを作る
そしたらジッと私を見て少し目を細めて小さく笑う尽八くん

かっこよすぎる、ずるい

心臓撃ち抜かれたよ…本当にもう…

休憩時間に尽八くんから『何かあったか。表情が気になってな』ってLINEが来た

近くにいるのに、スマホでやり取りもおかしいね
でも、やっぱり尽八くんは優しい
少しの変化でも気付いて心配してくれるから

もう、苦しい位に愛しさが募ってどうしようもない

『ううん、尽八くんが恋しくてちょっと寂しい気持ちになっただけ。今日のお昼休み、沢山ギューってして欲しいな。寧ろ私からギュッってしていい?好きだよ、大好き!』

いつもはここまで言わないけど、文章だし勢いでそう打って送った

それを見た尽八くんが赤面してスマホを落としたのを見て伝わったなってホッとしたのは内緒


その日のお昼休みは宣言通り、尽八くんが教室に入ってきてすぐに抱きついた

それを容易く受け止めて
「オレもアオが恋しかった」
なんて言うから、私は照れと幸せで尽八くんの胸に顔を埋めたまましばらく顔を上げられないでいた












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