11.それからの君

まさか…

まさか東堂くんから好きだなんて言葉を聞くなんて、思っても見なかったからあの時は夢みたいで嘘みたいで、頭はふわふわしているのにやたら心臓だけははやく動いていて

頭と体のバランスの違いに戸惑うも、それ以上に「好きだ」の言葉が嬉しすぎてもうどうしようもなかった


あの日はどうやって家まで帰ったんだろう
そんな事も思い出せないまま、数週間が過ぎて

晴れて恋人同士になった私達は、この関係を大っぴらにする訳でもなく穏やかな日々を過ごしていた

多分お互い隠している訳でもないんだと思うけど…

東堂くんの影響力は凄まじいモノがあるから万が一彼女が出来たなんて知れたら倒れる人も出てくるだろう

私が逆の立場だったら倒れていたに違いないし

そんな事が想像出来るから、慎ましくこの恋を育んでいけばいいと思っている

週に2回程一緒にお昼を共にする
それは東堂くんからの提案だった
あんまり2人でいられる時間がないから、せめてこれ位はという優しい気遣い

ガラッとドアのあく音がした

「東堂くん!」

「待たせたな山田さん」

「全然」

ここはとある空き教室で
誰も来ない穴場スポットだという
東堂くんが同じ部活の人に教えて貰ったらしい

念のため中から鍵をかけてしまえばもう邪魔される事は無い

同じクラスだけど少し時間をズラして行く所が何だか芸能人のお忍びデートみたいでドキドキする

たわいない話をするのが嬉しくて
前は気持ちがバレるのが怖くて挙動不審になりがちだったのに、今はあの時が嘘みたいにすんなり話せてしまう単純さ

お弁当を食べ終わってからのまったりした時間もとても幸せな時間

「そのだな、山田さん…話したい事があって」

不意に真剣な表情になるから私の心臓が高鳴った

それも少し悪い意味で
振られたら…と言うのがまず頭に過ぎるのだ
だって、特別美人でも特別に秀ているものがある訳でもない私だから
だから自信がある訳じゃなくて
幸せの裏腹にそういった恐怖はいつだって付き纏う

「何かな?」

何となく緊張した面持ちで話してしまう
実際緊張しているのだけれど

「そろそろ名前で呼びたいと思っているんだが、どうだろう?」

「へ?」

東堂くんの言葉に間の抜けた言葉しか返せない自分が情けない

「アオちゃん」

「は、はい!!」

「そう呼んでも?」

破壊力が凄すぎて反応出来ない
たかが名前、されど名前

東堂くんに呼ばれると私の名前は凄く素敵な宝物のように感じる

「嬉しい!是非名前で呼んで」

「じゃあアオちゃんも呼んでくれるな?」

オレの事、名前で

と頭を撫でながら囁くように言うから私はまた恥ずかしくなって言葉に詰まる

ずるい

なんでこんなにカッコイイの

嫌か?と、そんな事を言われて思わず「嫌じゃない!」って大きな声で言ってしまった
恥ずかしい…

そんな私なのに東堂くんは優しく笑うからもう敵わない

「じゃあ呼んでみてくれ」

と優しい声で言う

私の頭を撫でていた手が離れたと思ったら、今度はその手が私の手を優しく握る

タダでさえ恥ずかしいのに、余計に緊張するじゃない

それでも私が呼ぶのを多分待ってくれているから本当に優しすぎる

「尽八くん」

小さな声になってしまったけど尽八くんの耳にはちゃんと届いていたようで、嬉しそうに笑ったかと思えばそのまま手を引かれてあの図書室の時みたいに尽八くんの腕の中に閉じ込められたのだった

あの時と違う意味の抱擁に嬉しくて

私も応えるようにそっと尽八くんの背中に手を回したのだった




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