また傷付けてしまった
そう思った時には既に遅くて

ありのままで行こう…そう思っていたのに




尽八くんとのデート中に大学の友達にバッタリ会った時、繋いでた手を咄嗟に離してしまった

そして素直に「彼氏だよ」って言えなかった

その時の尽八くんは今まで見た事ない位“悲しい”って顔をしたんだ

なのにすぐに笑顔になって「友達とお茶しておいで」と言って、そのまま帰ってしまった

傷つけてしまったと
謝らないと…と、慌てて追いかけたけど「今は、アオちゃんと一緒に居たくない。すまない」って弱々しい笑顔を向けられて、私は何も言えなかった


その後も何度電話しても出て貰えなかったし、LINEも返してはくれるけど…短い言葉ばかり

ずっとずっと待たせて
ずっと私に合わせてもらって
年上ぶってる私よりも大人な尽八くんに甘え過ぎていた

悲しそうに笑う事はあったけど、あんなに「悲しい」って顔は初めてだった
自分のした事の重大さに気づいても遅すぎる


あんなに傷つけて、私は今何してるんだろう
電話やLINEで済まそうとして

尽八くんはいつだって真っ直ぐだった
ちゃんと会って顔を目を見て、言葉にして伝えてくれた

私は尽八くんが好き
これは偽りはないし、自信を持って尽八くんに言える

尽八くんに言えるのに周りには…?

ずっと一途に好きでいてくれた尽八くんに、今度は私も大切にしたい…なんて思ってたのにこの有様

尽八くんはきっと何も言わずわかってくれるからと、心のどこかで甘えてた自分が情けない


尽八くんが今どうしてるか、何してるのかわからない
引退はまだと言ってたから…

いても立ってもいられなくなった私はカバンにスマホを突っ込んで家を飛び出していた



走って
走って走って

暦の上では秋と言えどまだ暑くて
時々吹く風にも気付かない位、必死だった

早く、早く

心と自分のカラダがチグハグでついていかないのがもどかしい

心臓が痛いし息が苦しい
こんなに走った事なんてなくて
それでも足を止めることはなかった


何気に初めて来た尽八くんの通う学校
年の差を嫌でも目の当たりにしてしまうから、何かと理由をつけて近付かなかった場所

校門の前で止まれば汗が流れるし息も整わない
髪の毛もぐちゃぐちゃできっと酷い顔してる
それでもそんな事は言ってられなくて


来てしまったものの、どうしよう
知らない場所に知らない人ばかり

尽八くんに電話しようか…でも部活中だよねと
どうしようかと考えてたら「東堂くん」と言う言葉が耳に入る

聞こえた方を見れば女の子が数人歩いてる

「もうすぐゴールだって」
「あっちだよね!早く行かなきゃ!」

楽そうに、でも急ぎ足で過ぎ去って行く彼女達を見て走りに行ってる尽八くんが戻ってくるのがわかった

手がかりが出来た…と女の子達の行った方に私も向かう

結構な数のギャラリーがいるから私1人くらい混じっても問題ない…かな
私と同じ箱学生じゃない一般の人もいるのが幸いだ

自転車の集団が次々と帰ってくる

キャーと黄色い歓声が上がれば、そこに尽八くんがいた


尽八くんはキラキラしててかっこよくて
臆病な私はまた逃げ出したくなった
だってどうしても釣り合わないから

でも、それでも尽八くんを見たらどうしようない感情が込み上げてきて

傷つけてしまった事の後悔、申し訳ない気持ち
かっこいい尽八くんが眩しすぎて怖い後ろ向きな気持ち

だけどもう、抑えられない
もう絶対傷つけたりなんてしたくない

散々酷いことをしてって尽八くんに嫌われても

もそれでも今度は私がずっと好きでいるって
もう逃げない、逃げるなと

そう腹を括ったら

「尽八くん!!!」

私は今まで出した事ないんじゃないかって大きな声で尽八くんを呼んでいた

部活中なのに、早まった…なんて後悔しても遅い

驚いた顔をしてこっちを見ている尽八くんに、駆け寄った

周りがザワつく

迷惑をかけてしまった事を詫びて、後で話す時間を下さいと頼もうと

「アオちゃん、どうして」
「ごめん。急に来て呼び止めて迷惑かけて」
「いや、驚いたよ」
「後で、後で話がしたいの。私と話すの嫌かもしれないけど…」

ちゃんと話せてるかわからない
必死だった
尽八くんは何とも言えない顔をして私を見てた

そしたら部員の子が尽八くんの肩を叩く
謝ろうとしたらクビを振って静止された
尽八くんとその子が目を合わせたらその子は静かに尽八くんの背中を押した

「すまないフク。ありがとう」

尽八くんが言えば、フク…と尽八くんが呼んだその子は力強く頷いた

「アオちゃん、こっち」

そう言われてついて行けば、恐らく部室裏か何処かの死角になってる所に連れてこられた

尽八くんともう一度顔を合わせると、尽八くんは何かを悟ったような…悲しいのか穏やかなのかわからない笑みを浮かべた


「尽八くん、ごめん。部活中なのに」
「いや、驚いたが…どうしたんだ?」
「私、尽八くんに謝りたくて」

私がそう言えば尽八くんは謝らなくていいと言うんだ

「オレがまだまだ未熟なんだ。だからごめん。あの日は本当に幸せだったよ。でも無理矢理付き合わせてた事に気付かずオレは」

ごめん。いい思い出になったよ。ありがとう

と言ってまた悲しそうに笑うんだ


愛想も尽かされてしまった
でも私がした事だから仕方ない、自業自得

けど

「ごめん。私の方が無駄に年上なだけでまだまだ未熟で尽八くんを傷つけて。本当にごめんなさい。愛想つかされてしまったのは仕方ないと…思ってる。けど、どうしても尽八くんが好き」

好きで好きで仕方ないの
だから尽八くんに愛想つかされても、今度は私がずっと尽八くんが好き、大好き

今まで本当にごめんなさい



「アオちゃんはオレの事を想ってくれてるのか?」
「すき、大好き。でもそんな事言う資格なんてないのもわかってる。でもワガママで自分勝手だけど尽八くんが好きで好きで仕方ない、本当にごめん」

私の言葉を聞いて尽八くんはふぅと息を吐き目を閉じた

沈黙が怖かった
けれど尽八くんの目が開いて私を見ると

泣きそうな、そんな顔をしていた

「ごめんね、尽八くん。本当にごめん」

アタフタしてる私をよそに尽八くんは私の頬にそっと触れた


「オレはアオちゃんが好きだよ。どう足掻いてもそれは変わる事がない位にアオちゃんしか見えないんだ」

「遅くなってごめんね、今更ごめんね」

私も尽八くんしか見えない

そう言えば尽八くんに思い切り抱きしめられた


「もう後ろ向きにならないから。ごめんね、いままで。信頼も何もないと思うけど…今度はちゃんと、ちゃんと伝えるから」

「もう充分だよ。ありがとう。ここまで来てくれて。アオちゃんがここに来るのは勇気のいる事だとわかってる。けど来てくれて気持ちを知れて。充分だよ」







「ねぇ実はね」
「ん?どしたの?」
「どしたの、アオ」
「この間一緒だった箱学の子いたでしょ。あの子彼氏なんだ。幼なじみはのも本当なんだけど。何だか言えなくて」

あの時会った友達に言えば友達は「羨ましい〜!かっこいい彼氏!!」とか「純愛じゃん!!」って言ってすんなり受け止めてくれた

今までの葛藤も聞いてもらえば、中高生の時は年の差が気になるのは仕方ない。そんなもんよ。と言ってくれた

…何だか拍子抜け

本当に今までこんなに悩んでたのが馬鹿みたい



その後、尽八くんとまたデートした時にまた違う知り合いに会った

「アオちゃん彼氏とデート?」
「うん、そうだよ!!デート中」


私がそう答えた時の尽八くんの顔を見たら
今まで見た事が無い位‘嬉しい’って伝わる、そんな顔をしていた

もう悲しい顔はさせないから
もっと幸せだと笑って貰えるようにするから

そう心に誓った


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