万物流転 | ナノ
34.うらぎり
日曜日、僕のところへは見舞客がつぎつぎにやってきた。皆がみんな、僕を一生懸命に慰めてくれようとしているのがよく分かった。けれど…皆には、僕が本当に頭を悩ませていることをせいぜい半分くらいしか知らないでいた。

マダム・ポンフリーが「面会の時間は終わりましたよ、二人とも寮へお戻りなさい!」とロンとハーマイオニーに言ったので彼らは、名残惜しそうに僕に手を振りながら医務室を出て行った。そして、彼女は二人分の湯気の立つゴブレットを持ってきて、その片方を僕に差し出した。

僕が嫌そうな顔をしたから「この中には、スケレ・グロなんて入っていませんよ」と苦笑を零し、僕にこれを飲むように促してからマダム・ポンフリーは向かいのカーテンで仕切られているベッドの方へ歩いていった。チョンと舌の先で舐めるとレモンの酸っぱい味がする。

いつの間にか校医は姿を奥の部屋へ消していて「安心しなよ、これはレモネードだよ」と掠れた声で、久し振りにその姿を見せるレイリ先輩が、ゴブレットを片手に僕のベッドの傍まで歩いてきていた。

「ふふ、そのカード。ジニーから貰ったんでしょ?」先輩はベッドの脇にあるランプの乗った収納箱の上に置いてある手作りのカードに視線を移していた。「はい、そうです」と僕が言えば「私も今朝、同じものをもらったよ。と言っても、君ほど大きなカードではなかったけどね」と顔を綻ばせながら言う。

僕のベッドに先輩が腰掛けたので、その重みでゆっくりと左側が沈んだ。ちらっと先輩の横顔を盗み見ると、彼女の顔は悲愴感を滲ませており、けれどもその黒い瞳だけは、しっかりと前を見据えていた。

そんなレイリ先輩の姿に、僕はもやもやと心の中でくすぶっている、まだ誰にも話していない僕に付きまとう死神犬についてを相談してみてもよいだろうか?とほんのりと思ったのである。

20130817
title by MH+
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