万物流転 | ナノ
35.うらぎり2
先輩にグリムのことを相談しようかしまいか悩んでいると、その真っ直ぐな黒曜石みたいな目でじっと見つめられて「ハリー、最近眠れてないでしょう?」と言い当てられた。事実、僕はハッフルパフとの試合に破れ、ニンバスを暴れ柳に砕かれたその日から、ますます眠れなくなってしまった。

夜横になっていると、グリムのことやディメンターのことを考えてしまい、両親が死ぬ間際のあの声が頭の中で鳴り響くのをリピートしてしまうのだ。僕は眠りかけては、飛び起きて、恐怖に凍り付いたような夢にうなされ、またよくないことを考えてしまうという悪循環に嵌まってしまったのである。

「夜中に何度も、うなされてるよ」とこともなげに言う先輩に「すみません」と俯けば「君を責めている訳じゃないんだよ!」と慌てて付け足された。体調の優れない先輩にまで迷惑をかけていると知って、また落ち込んだ。こんな状態で、先輩に相談をするなんて真似できっこないよ…

膝を立ててその間に顔をうずめた僕に「あー」とか「うー」とか呟いた先輩は、しばらくしてから意を決したように僕の上へとそっと覆い被さった。僕がこの状態にびっくりして顔を上げようとすると、するっと先輩の手が僕の頭に伸びてきてさらさらと髪の毛を撫でてくれた。

「あのね、ハリー。知ってた?
 辛さを癒すのには、人肌の温度が一番効果的なんだってさ」

「せ、先輩…!」

「君はまだ三年生で、十三歳の男の子なんだ…まだ十分に大人たちから庇護される対象なんだよ。
 特にここのホグワーツの生徒でいるのだから、私達は尚更ね?」

トントンと背中を一定の早さでたたかれて、先輩からは石けんの香りと晴れた日の草原の匂いがした。「ロンやハーマイオニーには、まだ言ってないことでもあるんでしょう?しかも、そのことが君を一番苦しめている」先輩は透き通るような声で言った。

どうして先輩が、僕がロンやハーマイオニーに言っていないグリムのことで頭を悩ませていることを知っているんだ?と困惑しながら「どうして…」と口をついて出た言葉に、先輩はそっと身体を離したけれど、曖昧に微笑んで何も言わなかった。

「今夜はもう遅い。ハリーは寝るといいよ…君は明日には退院だろうから」

空っぽになった二人分のゴブレットを手に、先輩は立ち上がって方向転換した。その拍子に、カサリと音を立てて僕のベッドの上に紫色の封筒に黄金色の文字で『Constant vigilance!』と書いてある手紙が落ちた。

どう意味だろう?と思いながらも、僕は先輩にそれを渡した。一瞬だけ、寂しそうにその手紙を目にした先輩は「ありがとう」と言った。そして「クリスマス休暇は、私もここに残るよ」と言い残して、僕のスペースを出て行った。と言うことは、あの手紙はレイリ先輩の保護者からのものだってことか。

あんなに嬉しそうに『今回のクリスマス休暇に会えるって梟便が来たから』と話していたのに…。僕は向かいのカーテンに仕切られたレイリ先輩が休んでいるベッドを見つめた。

20130817
title by MH+
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