万物流転 | ナノ
30.ふたりで6
大鍋に入れる材料は、残すところトリカブトだけになった。大広間ではハロウィーンの宴の準備の仕上げに取り掛かっている頃だろう。もくもくと煙を吐き出す大鍋を見て、教授が真新しい三角巾を持って来て下さり「それで口と鼻を覆え。慣れないやつが直にそのガスを吸うのは有害だ」と言う。

教授は私に見学させる時、魔法を使って私のいる方へはこのガスが流れないよう配慮して下さったし、作っている本人は慣れているから布で口や鼻を覆うことはしなかったんだな、と判った。

黄緑色の炎が大鍋から三回噴き出すのを確認して、まな板の上でトリカブトの塊根をひとつ刻んでその欠片をナイフの腹で押し潰し、それによって出た汁もろともを大鍋へ入れ、ぐりぐりとかき混ぜた。混ぜる時はスネイプ教授の「右に四、左に五、素早く混ぜる」という言葉を思い出しながらやった。

「教授、いかがでしょうか?」
「…ふむ。 初めてにしては、悪くないだろう」

私の作った脱狼薬を柄杓で掬い、とろとろと大鍋の中へと落としながら粘度を調べる教授に合格を言い渡されて嬉しかった。今にも飛びつきそうな私を手で制しながら、片手で杖を振るったスネイプ教授は大鍋に中身の薬をゴブレットへと移させていた。

「あ、教授。これを添削してください」
「…なんだ、それは?」

「教えて頂いた脱狼薬の作り方を記述したものと…自分なりの考察をレポートにまとめたんです」
「…ほう。それならば、見せてもらう」
「お手柔らかにお願いしますね、スネイプ教授?」

エプロンを脱ぐ時ローブのポケットに触れて、午前中のうちに書いてしまった例のレポートのことを思い出した。鞄からポケットに移しておいて良かった。私がそれを手渡すと、何やら興味深げな顔をしたスネイプ教授はそれを引き出しの中へと仕舞い込んだ。

手を洗っていたら後ろから教授に呼ばれた。振り返ると、黒い瞳が妖しく光り口元には薄ら笑みを浮かべていた。ハンカチで手を拭きながら彼の元へと寄れば、何かを聞きたげな雰囲気で薬のなみなみ注がれたゴブレットを片手に「お前はこれを見て、どう思う?」と言う。

「他のどの生徒よりも魔法薬学の才に秀でた賢いお前なら、もう分かっているはずだ。
 新任の闇の魔術に対する防衛術のリーマス・ルーピン教授の正体が、何者であるかを!」

演説口調ではっきりとおっしゃるスネイプ教授の瞳の奥は、ゆらゆらと狂気の炎が燃え上がっていた。

私は逃げるように「それでも、アルバス・ダンブルドア校長先生がこの学校へ招き入れたのですから…校長先生の目に狂いはありませんよ」と去年一年間のことは棚に上げて呟いたのだった。

20130817
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