万物流転 | ナノ
19.こわれる
鍵穴に詰めたチューインガムを、見事ピーブズの鼻の穴に逆詰めをしたルーピン教授の噂は瞬く間に生徒の間に広まっているそんな頃。私は足繁くハグリットの元へ通い、なんとか彼を慰めようとしていたそんな頃。

闇の魔術に対する防衛術の授業で、我々五年生にもついに『まね妖怪ボガート』の授業が舞い込んだ。本を読んだだけでは、他の学年がどのような授業内容で進んでいるのか分らない。まさか五年生にもなって、三年生のハリー達と同じような授業をするとは思ってもいなくて、正直戸惑った。

何に戸惑ったのか。それは、もちろん五年生も三年生も同じボガートを使った授業をやるのだと言うこともまごついたが、私が一番戸惑ったことは別にある。

ボガートは別名『形態模写妖怪』と呼ばれていて自分の一番怖いと思っているものに化けるのだ。もし、私がボガートの目の前に立ちはだかった時――彼らは一体何に姿・形を変えて私を恐がらせようとするのだろうか?私は、本来のあるべき姿の私を知らない『皆』に、自分の怖いものが見られるのが一番怖かったのだ。





「ルーピン教授、今日はありがとうございました」

夕方。大広間では、生徒達が集まって夕食にありついている時間帯。私は『闇の魔術に対する防衛術』を担当するリーマス・ルーピン教授と人気のない廊下を歩いていた。なぜ私が今先生の隣りを歩いているかと言うと、今日の最後の授業が先生の担当する防衛術であり、そこでまね妖怪ボガートを『リディクラス』で追っ払うと言う実戦的な内容であった。

三年生の噂を聞いていた私達五年生は、それはもうウキウキとした心地で授業に臨み洋箪笥の前に一列にならんだ。それ以降はスムーズに進みボガートは巨大イモムシに変身したり、ピエロになったり、激怒したウィーズリー夫人になったり、人の生首になったりと忙しくその身を誰かの恐ろしいと思うものに変えていた。

けれど、とうとう私の番になって(双子は私の怖いものを見ようと前の方へ歩み出た)目の前のボガートはぐちゃぐちゃと空間を歪ませながら、私を恐がらせようといろんなものに変形を繰り返した。しかし、一秒と待たない間に次から次へと形を変えていく。

なかなか定まらないボガートの姿を見てルーピン教授は驚いた顔で「ミス.ウチハには、怖いものがないのかな?」と後ろから私の肩を抱き耳元でぼそっと言った。私は曖昧に答えながら、どうしてボガートは迷っているのだろう?と歪む虚空を見つめる。

そして、次の瞬間。私は思わず息を呑んだ。クラス中の生徒が「ヒッ!」と悲鳴を上げた。なんとボガートは、事も有ろうか特急で遭遇したあの吸魂鬼ディメンターに姿を変え、私に襲いかかってきたのだ。『り、リディクラス!』私は叫んだ。数秒遅れでパチン!と破裂音がして、そこに立っていたのは滑稽な物ではなく、血だらけの黒衣をまとい、暗部の面を付けた私自身だったのである。

時間が止まったような感じがした。クラスはまるで息を止めたように静かだった。目の前の私であり私でない者は仮面を口元までずらし、にぃと嫌な笑みを浮かべて『リディクラス!』今度はルーピン教授が叫んだ。すると、そのボガートは水風線を割った時みたいにバシャンと弾けて箪笥へ入って行った。

ハッハッと肩で息をする私を隠すように、生徒と私の間に立って「今日の授業はこれで終わり。今日の感想と反省を羊皮紙にまとめて提出してくれ」と言って微笑んだ。実技がまだの生徒は「えー」とブーイングをしたが渋々荷物をまとめて教室を出て行く。

「フレッドかな、ジョージかな?」
「「はい、先生」」

アンジェリーナとアリシアがぺたりとしゃがみ込んだ私に駆け寄ってきて背中を擦ってくれた。ルーピン教授は「彼女の荷物を寮まで運んであげてくれるかな?」と双子にお願いをしていて、四人は教授の指示に従ってこの教室を出て行った。

20130816
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