万物流転 | ナノ
10.そうなん7
「それにしても、どうしてレイリなんだろうなー」
「レイリも俺たちと一緒にワルいことしてきたのになー」

なんとか二人を宥めることに成功したのだが、車窓には一段と暗く荒涼とした風景が広がり、にわかに雨が降り出していた。時折、ガッタンゴットン揺れる特急は、順調にホグワーツ校へと近づいていた。

「…あなたたちほど目立ってないからだわね。
 それに、私がホグズミード村へ出入りしているのを…マクゴナガル先生は知らない。そうでしょう?」

「そりゃそうだ!なんせ僕達が直々に案内してやってんだもんな!」

「それに、他のやつらは、まさかあの優等生のレイリが許可証にサインを貰ってないなんて思わないだろうしな!」

含みのある笑みで私が言えば、ジョージもフレッドも途端に顔に明るさが戻ってきた。スルリと両側から腕が伸びてきて肩を組む。私がどうして監督生になったかは、今の彼らには告げない方が、パーシー先輩の身の為になると思い、私はそっと真実を腹の底に落とした。

私が監督生に選ばれたのは、先輩が卒業後のホグワーツでの双子にブレーキをかける役割を任せられるのは私しかいない!とお考えになったようで、彼が私をマクゴナガル先生に次期監督生に推薦したんだそうだ。

顔合わせの時に痛いほど肩を掴まれ「ホグワーツの風紀の為に頑張ろう!」と言われた時、まぁ、先輩の人を見る目はあながち間違いではないけれど、厄介なことを任せられたものだな…と、心の中で思ったことはパーシー先輩には内緒である。

見回りがあるから、と文句をたれる二人に告げコンパートメントを出る。しばらく歩くとアンジェリーナ達のコンパートを見つけたので声をかけ、リーに双子のところへ戻るようにお願いした。アンジェリーナとアリシアから「監督生おめでとう!」とローブのポケット一杯にキャンディーやチョコレートの包みを貰い彼女らとも別れた。

ちらちらとコンパートメントの中を確認しながら、私は自分の担当の最後尾の方へと通路を歩いていた。特に不審な行為をする者もおらず、まだ始まってもいない新学期早々減点を言い渡すことはなくこの見回りは終わりそうだ。そう思っていると、向かいからスリザリンの例の奴らが歩いてくるのが見えた。

私の姿を確認した先頭を歩いているマルフォイは「ひっ!」と顔を引き攣らせて、取り巻きを蹴散らしながら「僕は何もしてないからな!」と吐き捨て一目散に走り去る。後から遅れて「ドラコ!置いてかないでよ」と短い手足を動かして彼の取り巻きが重たい音を響かて追い掛けていった。

「そんなに慌てると転ぶよー」

私はその丸い背中に声をかけたが、遅かったようだ。どしんと言う鈍い音と「アイタッ!」の声が通路の向こうの方から聞こえてきた。私は短く溜息をつき、最後のコンパートを覗いたら、中では見知った赤毛の男の子が空を切るように乱暴に両腕を振り回しているのが見えた。

「…何をしてるのかな、ロンくん」
「あ!レイリ先輩」

「さっき例の三人組がこっちから来たけど…君達は何もされなかった?」
「はい、何にもされませんでした!アー、ここには先生がいるので…」
「先生? …あぁ、」

(R.J.ルーピン教授)私は口の中で呟いた。継ぎ接ぎのローブを頭まですっぽりと被り眠っているらしいルーピン教授を目にした時、私はようやく事の重大さを理解した。あぁ、今年は確か――犬と狼の年じゃないか!

20130815
title by MH+
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