万物流転 | ナノ
9.そうなん6
特急に乗り込んでコンパートメントへ行こうとしたら、胸に主席のバッジを輝かせたパーシー先輩に呼び止められた。「これから監督生の顔合わせがあるんだ、一緒に来てくれ」そう言った先輩の背後には、頬を染めてやや緊張気味のコンラッド・アダムズが胸に我らがシンボルマークと大きな『P』の文字が刻まれたバッチをつけて立っていた。

私は、颯爽と歩く先輩の後ろ姿を見て、茶髪で大柄なアダムズの隣りに寄った。アダムズは「キミも監督生になったんだね」と汗ばんだ手を私に伸ばしてきた。私はその手をとって「どうぞ、よろしく」と微笑めば「キミとなら安心だね。一緒にガンバろう!」と握り返された。

ポケットから出した監督生バッジをローブに付けながら歩いていると、進行方向の通路から双子とリー・ジョーダンが現れた。双子はまずパーシー先輩をからかい、そして彼が私とアダムズを連れているのに気が付いた。

「おいコンラッド!こんなカタブツと歩いてるとおまえも頭がカチコチに固まっちまうぞ!」
(おいフレッド!誰の頭がカチコチで堅物だって!?)

「や、やぁ。フレッドにジョージ…リー」
「久し振りだなラド!レイリも久し振り。おまえ相変わらずちっこいなぁ。 なぁ、オレたちと一緒にコンパートメントに来ねぇか?」

「…残念ながらあなたたちと一緒にはいけないのよ、リー」

そこでジョージが私の胸に光る監督生バッジに気が付いて悲鳴を上げた。なんだなんだとフレッドとリーが私を見つめて顔を青くした。「なんてことだ!」「レイリが、レイリが!」双子は頭を抱えて、この世の終わりのような顔をして「監督生の毒牙にかかってしまったぁああ!!」と叫ぶ。

パーシー先輩がそんな弟たちを、まるで靴下を見るような目付きで睨んでから「僕たちは先を急ごう」と言ってさっさと歩いて行ってしまった。リーが「双子はオレが連れてくから、おまえら行った方がいいんじゃない?」と苦笑いを零したのであった。





新監督生と六年生、七年生の先輩監督生との顔合わせが終わってから、双子の待つコンパートメントを覗くと、中はまるでお葬式のような暗い空気が漂っており、居心地の悪そうに入り口に近い場所でリー・ジョーダンがペットのタランチュラを撫でていた。

膝に手をつき、がっくりと項垂れている二人を見て私は溜息をつく。一体彼らからはどんな軽蔑の眼差しで見られるんだろう…意を決してそのコンパートメントの中に入った。リーの隣りに腰を落ち着け、正面の全く同じ格好をした二人に声をかければ涙目の二人に勢いよく抱き着かれた。

リーがぴょんとその場を逃げ出すと、クツクツと私達を見て笑って「後のことは任せた。オレはちょっくらアンジーとアリシアのとこに邪魔してくるぜ」と言ってこのコンパートを出て行った。ちょ、こいつらを私に丸投げしたな!

私は仕方なく、リーの出て行った扉を見つめていた。そして、抱き竦められているこの状態をどう打破しようかと考えながら、びーびーと喚く二人の背中を撫でたのであった。

20130815
title by MH+

*コンラッド・アダムズ
愛称:ラッド(Conrad⇒Rad)
原作には登場しないオリジナルキャラクターです
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