万物流転 | ナノ
31.わらって5
医務室を飛び出して職員室へと急いだ。その時、不思議なことに同じ寮のレイリ先輩が、たったひとりで廊下にいるのを見た。見たと言っても後ろ姿だけだったから、もしかしたら全くの別人かもしれない。不思議には思ったけど、声をかけることは出来ずに、僕達は先を急いだ。発見した事実を、マクゴナガル先生にお伝えしようと使命感でいっぱいだったからだ。

僕達は、誰もいない職員室で先生が来るのを待っていた。しかし、無情にもそこで耳を疑うようなことを聞いてしまう。だから、僕は先ほど目にしたレイリ先輩の後ろ姿のことなんか、すっかりそのまま頭から抜け落ちてしまったのである。そのことが、大きな間違いであったとを知らずに…。

マクゴナガル先生の悲痛な声で「とうとう起りました。生徒が一人、怪物に『秘密の部屋』へと連れ去られたのです」その言葉にフリットウィック先生はワッと泣き出し、あのマダム・フーチでさえ腰が抜けて椅子に座り込み、震える声で「誰が、誰が連れ去られたのですか?」と聞いた。

「ジネブラ・モリー・ウィーズリー」
マクゴナガル先生は、絶望した声でそう告げたのです。

ロンはへなへなと隠れていた洋服掛けの後ろで座り込んでしまった。それでも僕は、耳をすませて先生達の話を聞いた。無能なロックハートが遅れて登場し、スネイプの「なんと、適任者が」の声を皮切りに、先生達から囂々と捲し立てられ、一気に怯えた表情になり職員室を出て行った。

寮に急いで帰って、マクゴナガル先生から事の重要な点だけを凝縮した説明を生徒達は聞いた。談話室がこんなにも静かになったのは、今までもこれからも無いと思う。日没近くになってフレッドとジョージが暗い顔をして男子寮へと下がり、二人きりになったロンが「ジニーはきっと何かを知ってたんだ」と言った。

何かしなくちゃ!僕はロンと一緒にロックハートの部屋を訪問した。しかし、事も有ろうにロックハートは荷物をまとめており今にもこの城を出ようとしていた。情けない男の姿を睨み付ける僕とロン。彼はついに、彼がこれまで行ってきたことを白状したのだ。彼は僕らが見抜いていた通りの男だったってことさ。

怒り任せに、僕とロンはロックハートを三階の女子トイレへ連れてきた。道中どうやって、喚いて隙あらば逃げ出そうとする大の男を引っ掴んで暗い廊下を進んで来たかはもう分らない。マートルに自分が死んだ時の話をさせて、手洗い場を調べると蛇の彫刻が施してあるのに気付いた。

死に物狂いで「開け」と言えば、みるみると手洗い場が沈んでいき太いパイプが姿を現した。逃げ出そうとするロックハートをその太いパイプの中へと蹴り入れて、僕とロンは順番にそのパイプを滑り落ちた。行き着いた先は、じめじめと湿る石のトンネルだった。

それから、ロックハートはロンに殴り掛かり彼の杖をひったくった。「坊やたち、遊びはこれでおしまいだ!」にやっと歪んだ笑みを浮かべながらロンの杖を僕達に向かって『オブリビエイト、忘れよ!』振り下ろした。

ロンの杖を奪い取ったが運の尽き。ロックハートは自身が唱えた呪文が逆噴射して、ひっくり返りながら後ろへと吹き飛ばされてぶつかった。その振動で、近くの岩がガラガラと音を立てて崩れて、僕とロンは離ればなれになってしまった。

重たい沈黙が流れた後に、ロンが「僕は少しでも…帰りに君とジニーが一緒に通れるようにこの岩石を取り崩してみるよ」と懸命に落ち着こうとする声で言った。

「だから、君は行って!はやく!」
「わかったよ、ロン!僕は必ず、ジニーを見つけ出す!」

20130813
title by MH+
[top]