32.わらって6
細く長く奥へと伸びる薄暗い通路を、杖先にぼやっと灯るこの弱々しい光だけで進むのは非常に心細かった。歩きながら僕は一生懸命に、笑うジニーの姿を思い浮かべた。それと、ロンとの約束を頭の中で何度も繰り返した。今の僕を突き動かすのは、その二つだった。
早くみんなの待つグリフィンドールの温かい談話室へ三人で帰りたい。きっとそこでは、目覚めたハーマイオニーが、ぼろ雑巾みたいな僕達をいつもの笑顔で迎え入れてくれるんだ。「あなたたち、今度はいったい何をしでかしたの?」とクスクス笑って…
僕は、シンメトリーに立つ蛇の柱の間をゆっくりと進んだ。僕が歩くたびに鳴る足音が、薄暗い壁に反響してその音に増々神経を尖らせた。最後の柱を抜けると、巨大な石像が口を閉じて壁に貼り付いていた。そして、その丁度足元にジニーがいた!
「お願いだ、ジニー目を覚まして!」
僕が彼女に駆け寄り肩を揺すると「その子は目を覚ましはしない」ともの静かな声が聞こえた。声のする方へ顔を上げると、背の高い黒髪の少年がすぐ側の柱に凭れ掛かってこちらを見ていた。彼の身体の輪郭はぼやけていて、僕には、あの少年がT.M.リドルだと分かった。
「ジニーが目を覚まさないって…それって、まさか――」
「…彼女はまだ、生きている」
「それなら…! トム、僕を助けてくれないか。
ジニーをここから運び出さなきゃ!バジリスクが来る前に!」
「…呼ばれるまでは、来やしない」
「なんだって?」
リドルは笑みを深めた。彼の瞳が怪しく赤い光に輝いた。僕はぶるりと身が震える。それに気を良くしたのか…ジニーがこの状態に至るまでを、形の良い唇がすらすらと語った。その話を聞いて驚く。そうか!ジニーはこいつに操られていたのか!そして同時に、腹の底から怒りが沸き上がってくる。
「僕は君にいろいろ聞きたいことがある」
「…なにを?」
「そうだな」とリドルは愛想良く微笑したまま僕に問う「これと言って特別な魔力をもたない赤ん坊の君が…不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った?」貪るような目をして、続けざまに「ヴォルデモート卿の力は打ち砕かれたのに、君はたった一つ…その額の傷を受けただけで逃れたのは何故だ?」と身の毛のよだつ血のように赤い瞳で僕を睨み付けた。
「僕がどうして逃れたか、なぜ君が気にするんだ?」
「ヴォルデモートは…過去の僕であり、現在であり、未来なのだ」
ポケットから僕の杖を取り出したリドルは、恍惚とした表情で空中に文字を書いた。TOM MARVOLO RIDDLEの三つの言葉が揺らめきながら淡く光る。そして、次にリドルが杖を振った瞬間、目を疑うような文字の羅列に変わった。
『I AM LORD VOLDEMORT』
「これでもう、君にも分かっただろう?ハリー・ポッター…」リドルの言葉はまるで即効性の劇薬みたいだった。一気に大きな衝撃を受け過ぎて、僕の脳味噌はキャパシティーを超えショートしてしまった。
20130813
title by MH+
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細く長く奥へと伸びる薄暗い通路を、杖先にぼやっと灯るこの弱々しい光だけで進むのは非常に心細かった。歩きながら僕は一生懸命に、笑うジニーの姿を思い浮かべた。それと、ロンとの約束を頭の中で何度も繰り返した。今の僕を突き動かすのは、その二つだった。
早くみんなの待つグリフィンドールの温かい談話室へ三人で帰りたい。きっとそこでは、目覚めたハーマイオニーが、ぼろ雑巾みたいな僕達をいつもの笑顔で迎え入れてくれるんだ。「あなたたち、今度はいったい何をしでかしたの?」とクスクス笑って…
僕は、シンメトリーに立つ蛇の柱の間をゆっくりと進んだ。僕が歩くたびに鳴る足音が、薄暗い壁に反響してその音に増々神経を尖らせた。最後の柱を抜けると、巨大な石像が口を閉じて壁に貼り付いていた。そして、その丁度足元にジニーがいた!
「お願いだ、ジニー目を覚まして!」
僕が彼女に駆け寄り肩を揺すると「その子は目を覚ましはしない」ともの静かな声が聞こえた。声のする方へ顔を上げると、背の高い黒髪の少年がすぐ側の柱に凭れ掛かってこちらを見ていた。彼の身体の輪郭はぼやけていて、僕には、あの少年がT.M.リドルだと分かった。
「ジニーが目を覚まさないって…それって、まさか――」
「…彼女はまだ、生きている」
「それなら…! トム、僕を助けてくれないか。
ジニーをここから運び出さなきゃ!バジリスクが来る前に!」
「…呼ばれるまでは、来やしない」
「なんだって?」
リドルは笑みを深めた。彼の瞳が怪しく赤い光に輝いた。僕はぶるりと身が震える。それに気を良くしたのか…ジニーがこの状態に至るまでを、形の良い唇がすらすらと語った。その話を聞いて驚く。そうか!ジニーはこいつに操られていたのか!そして同時に、腹の底から怒りが沸き上がってくる。
「僕は君にいろいろ聞きたいことがある」
「…なにを?」
「そうだな」とリドルは愛想良く微笑したまま僕に問う「これと言って特別な魔力をもたない赤ん坊の君が…不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った?」貪るような目をして、続けざまに「ヴォルデモート卿の力は打ち砕かれたのに、君はたった一つ…その額の傷を受けただけで逃れたのは何故だ?」と身の毛のよだつ血のように赤い瞳で僕を睨み付けた。
「僕がどうして逃れたか、なぜ君が気にするんだ?」
「ヴォルデモートは…過去の僕であり、現在であり、未来なのだ」
ポケットから僕の杖を取り出したリドルは、恍惚とした表情で空中に文字を書いた。TOM MARVOLO RIDDLEの三つの言葉が揺らめきながら淡く光る。そして、次にリドルが杖を振った瞬間、目を疑うような文字の羅列に変わった。
『I AM LORD VOLDEMORT』
「これでもう、君にも分かっただろう?ハリー・ポッター…」リドルの言葉はまるで即効性の劇薬みたいだった。一気に大きな衝撃を受け過ぎて、僕の脳味噌はキャパシティーを超えショートしてしまった。
20130813
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