万物流転 | ナノ
28.わらって2
夜になって、フィルチの待つトロフィー・ルームへ行くと意外そうな表情を浮かべる管理人と、その隣りには双子の弟であるロンくんが、まるで幽霊でも見るような顔をして立っていた。

時間きっかり。8時になったのを確認した管理人は、私と彼をトロフィー・ルームへと招き入れる。その部屋には、大小さまざまなトロフィーが飾ってあり、大きいものはロンくんと同じくらいの背丈があり、小さいものは私の親指くらいのものがあった。

「手を抜けばすぐ分かるぞ…
 おまえたち、ズルしようったって、そうはいかないからな」

管理人のフィルチは、私達の作業風景をまるで舐めるような目で見張っていた。この世界で言うマグル式の磨き方は、慣れている私からすれば別段苦でもない。むしろ楽しいくらいだ。自分の手で銀杯を磨ききれいにしていくという作業は、やっていて達成感がある。

しかし、どうやらそう思っているのは私だけのようで、私の左側で大きな銀杯と格闘しているロンくんは「きっと、一晩中やらせられるんだ」とか何とかブツブツ言っており、スッカリ気が滅入っている。彼にとって銀杯磨きの作業は苦行以外の何ものでもないらしい。

しかも、時折彼を襲うナメクジの発作は、見ていてとても辛いものがあった。一時間ほどこれを続けていると、置き時計をちらちらと見ながら、舌打ちをするという行動を繰り返す管理人の姿を何度か目の端に捉えた。ロンは、一山越えたらしく、青い顔をしながら黙々と手を動かしていた。

「おい、おまえたち」という、その管理人の声に、私とロンくんが振り向いた。

「わたしはこれから見回りをしてくるが、手は休めるなよ!…もし、わたしが戻ってきた時作業が中断しているようなことがあれば、トイレの便器磨きの罰則も増やすからな!」

フィルチは、相棒のミセス・ノリスを連れて部屋を出て行った。途端に床に崩れ落ちたのはつい先ほどまで黙って磨いていたロンくんで、私は彼に駆け寄った。ぬらぬらと口から吐き出しきれていないナメクジが這い出していて、息苦しそうだ。

私は、魔法で『底なしバケツ』を出して彼にこの中へ出すように言って背中をさすった。ぼとぼとと真っ黒なバケツの中へ落ちていくナメクジ達。最後にハグリットの中指くらいの大きさのやつがロンの口から出て行くと、彼は力尽きたようにぐったりして、気を失った。

様子を見て、しばらく彼は目を覚まさないだろうと見切りをつけたところで、私は影分身を二体作り残りの銀杯の仕上げにかかった。全ての作業が終わるまでにかかった時間はおよそ十分。まぁ、私の手にかかればこんなもんかな!と悦に浸っているとミセス.ノリスの鳴き声が聞こえた。

ポフンと軽い破裂音と白煙を残し影分身は消えていった。部屋に戻ってきた管理人は、ピカピカと自分の姿を映し出す眩しい銀杯に目を見開き、口をあんぐり開けていたので、気を失い床に倒れているロンくんに気付くことはなかった。

20130813
title by MH+

*次からカッ飛ばします
また『底なしバケツ』なんてものは原作には登場しません
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