万物流転 | ナノ
47.やくそく4
教授の部屋の前に到着した。「案内はここまで」「マクゴナガルに何言われるのか分からんが」「とりあえず」「頑張れよ!」と双子は交互に話して去っていった。

残された私とロンは、緊張した面持ちで部屋の扉をノックした。短い返事の後に名を告げれば「入りなさい」ときびきびとした声で言われた。私を先頭にして女史の部屋に入室すると、中には私たちの他にも二名の生徒が呼び出されていた。

ビクトール・クラムの助手である屈強な体付きをしたポリアコフ、フラー・デラクールの助手であり妹のガブリエール・デラクールだった。彼女は、私に気付くと嬉しそうに手を振った。

「役者が全員そろったようじゃの」

その声に、部屋にいる四人の助手が一斉に窓の方に視線を向けた。そこには長い薄紫のローブを着て、目をキラキラさせながら微笑むダンブルドア校長先生が佇んでいらっしゃった。

「明日はとうとう第二の課題が執り行われる。ここに集めたものは皆、金の卵から次の課題のヒントを得て十分な時間を準備に費やしてきたはずじゃ」

不意に私たちから視線をお外しになった校長先生は、夜の帳の下り切った月の明るい外の景色を眺めながら「察しの良いものなら、選手諸君に与えられた更なる試練がどんなものであるのか…もう見当がついておるかもしれぬ」とおっしゃった。

「デラクール、ポリアコフ、ウィーズリー、そして、ウチハ」先生は、一人ひとりの顔を見つめながらお話を続けられた。私は校長先生の毅然とした声を聞きながら、なんとなく先が読めてしまった。

きっと彼は、このことに思い至っていたのだろう。だからこそ、私には何も明かさずに自分を待てと言ったのだ。私を不用意に不安がらせないために、怖がらせないために。セドリックは、どこまでも心優しくて慮りのある人間だった。

「この四名は、各校の代表選手の助手を務めておる。課題は翌朝の午前九時半より開始される手筈が整っておるが、その前に…ここに集まった君たち全員に、大会運営の手伝いをしてもらいたいのじゃ」

そうしてダンブルドアは、種明かしをした。つまり、第二の課題は私たち助手が人質となり、一時間の制限時間の中で、選手がひとりで湖に潜り救出するという、選手個人の力を試すものだということだった。私はそれを聞いて、なんだか脱力してしまった。

ロンとガブリエルは自分たちが人質になることに驚いて固まっていたし、ポリアコフに至っては、ドラゴンのように凶暴な水生生物と戦って宝でも取り返すつもりでいたのだろう。拍子抜けした表情を浮かべている。

マクゴナガルが今身に付けているもので濡れて困るものや湖の底で無くして困るものを預かると言って、私たちの前に箱を出現させた。身ひとつでここに来たらしいポリアコフが、杖さえ携帯していなかったのには誰もが驚いた。

私は自分の鞄(濡らしたら困るもの)と、ローブのポケットに入れていた杖(無くしたら困るもの)を箱の中に入れた。そして、ふと気付いたことがあったので私は校長先生に質問をした。それがそうなら、私はマクゴナガル教授にお願いしなければならないことがある。

「私たちはこの後、第二の試験が終わるまで選手に会えないということですね?」
「そう。その通りじゃよ。…ふむ。ミスウチハには何か問題があるようじゃ」

「ミネルバ、彼女の要件を聞いておやりなさい」校長先生がそう言って女史に指示を与えられたのは好都合だった。私はマクゴナガル教授に、開始前までにセドリックに渡してほしいと伝え、鞄の中からガラス筒を取り出した。教授は中に入った魔法薬をちらりと見てから「わかりました」と頷いた。

それを見届けたダンブルドアは、他の助手たちにも質問はないかを問い、申し出がないのを確認すると、机を横切って私たちの前に立った。人質となる私たち助手の全員が安全であること。そして、水から上がって体が空気に触れた時に目覚めることを私たちに保証し、杖を持たない片手を上げた。

「会場入りするにはちと早すぎるかもしれぬが、君たちを皆眠らせた後、ホグワーツの私有地にある湖の底で待機してもらうことになる。次に目覚める時は、仲間と喜び合う時じゃ」

マクゴナガルは眠りの魔法がいつかけられてもいいように、私たちの背後にソファーを出現させた。「それまでは、ゆっくりとおやすみ…」ダンブルドアのひょろりとして長い五本の指が振り下ろされた時、私たちの意識はそこで途切れた。

20160315
title by MH+

*炎ゴブ(下)のp.232『マクゴナガル先生の部屋で、〜みんなに眠りの魔法をかけた。』のところが実は一番書きたかった場所でした!
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