万物流転 | ナノ
40.みなぞこ4
新しい一週間が始まった。午前の薬草学を終えて、ドロドロのヘトヘトになりながらいつものメンバーと大広間へ向かう。温室の清掃当番がついにグリフィンドールに回ってきたせいで、六年生組は誰も彼も疲れた顔で昼食を食べていた。

獅子寮の長テーブルの適当な位置に腰を下ろし、フレッドとジョージのどうして生徒が温室掃除を授業でしなければならないのかという文句を聞き流しながら私はサラダをお皿に装った。相変わらずのアンジーは、席に着くともりもり食べ始めたが、アリシアは双子を「うるさい!」と一喝してからチキンソテーを皿に装っていた。

「女子はいいよなー」
「肉体労働しなくていいんだぜー」

リーは「お前らなぁ…」と呆れている。アリシアの注意を受けてしゅんとした双子は、机に顎を乗せてじと目で私たちを見てきた。アンジーはその視線を無視して(無視すんなー!とフォークを齧るフレッド。酷いぞアンジー!とそれに乗っかるジョージ)かぼちゃジュースを自分のコップに注ぐ。私にも注いでくれようとしたのでありがたく注いでもらった。

「あんな重いもん、女子には持たせらんねぇだろーが」
「さっすがリーね!あんた達と違って男気を感じるわ」

アリシアがリーを持ち上げると、双子は悔しそうにまたぶちぶちと言い始めた。そんな二人を眺めながら、ちょっと子どもっぽいとも思ったが、何故か懐かしく感じ、じわじわと笑いが込み上げてきてふふっと吹き出してしまった。

「なに笑ってるんだよー!」
「ふふっ…ふふふ。ごめん。なんだか…ふふっ、こうやって皆とご飯食べるのっていいなぁって思ったのよ」

ジョージが吹き出した私を見て、非難めいた口調で言った。笑いの波に飲まれた私が声を弾ませてそう言えば、フレッドが「なんだそれっ!」とつられて笑い、他の四人もそれぞれ声に出して笑った。

この日常が『いつも』の光景になったのはいつからだろう。不意に懐かしく思ってしまったのは、本当にどうしてなのだろう。私はやっと落ち着いた双子がサンドイッチにかぶりつくのを見ながら密かに思った。

あと何回、こうして皆とこのテーブルで制服を着て食事ができるのだろう。短いようであっと言う間の学生生活なのだ。胸の奥がぎゅうっと甘くて苦い痛みに包まれる。この平穏がずっと続けばいいのに…。

「だから、さっきから言ってるだろう?呼び寄せ呪文でそのアクアラング一式をビューンってさぁ」
「そんなのダメに決まってるって私、さっき言ったわよねぇ!ハリーはまだしも、あなたが制限時間の一時間以内にアクアラングの使い方を習得できる訳がないって!それに『国際魔法秘密綱領』に触れて失格よ!」

昼食を続けていると、いつもの三人が近くまで歩いてきた。利き手の人差し指を立てて空に弧を描くように動かして説明するロンに向かって、食ってかかるように熱弁を振るうハーマイオニーの声が大広間に響く。それを窘めるようにお疲れ気味のハリーが漏らすように言う。

「ハーマイオニー、落ち着いてよ…ここ大広間だよ?」
「私はあなた達のことを思って考えてるんじゃない!卵の謎が解けたなら、課題達成のための手段を見つけなきゃ!」

そんなハリーにも、ハーマイオニーは食ってかかり叱咤した。その奥からは、ネビルや他のグリフィンドールの四年生たちがぞろぞろと大広間に入ってくる。パーバティは呪文学の教科書を腕に抱えている。彼らはどうやら呪文学の授業を終えて来たらしい。

「もちろん理想的なのは、あなたが潜水艦か何かに変身することでしょうけど。あぁ!ヒトを変身させるところまで習ってたらよかったのに!」一足先に目的の位置まで着いたハーマイオニーはそう言いながら椅子を引いてどかりと座った。

「だけど、ヒトを変身させるのは六年生まで待たないといけないし。生半可なことをやったら、とんでもないことになりかねないし…」
「うん、僕も、もし潜水艦に変身できたとして、頭から潜望鏡を生やしたままウロウロするのは嬉しくないかな」

ハーマイオニーの言葉を耳で拾ったフレッドが「ヒトを何に変身させるって?」と彼女に聞き返した。ムッとした顔のロンと浮かない顔をしたハリーがフレッドをちらりと見ると、お互いに顔を見合わせて肩を落とした。

「ハリーとロンを、水の中に一時間入れても生きていられる何かに変身させる話をしてたんです!」
「水の中に一時間ねぇ…どうだい兄弟?何か思い付くか?」
「そうだな…水中に一時間、息継ぎなしって考えると…魚か?」
「いや、魚は鰭しかねぇから杖持てねぇぞ。だったら、蛙だろ」

ハーマイオニーの言葉に、うーんと唸り出したフレッドはジョージに尋ねた。ジョージは、サンドイッチを飲み込んでから答えた。彼が出した魚という答えにさらに乗っかったのはリーで、杖が持てないのを理由に、蛙に変身してはどうかとハリーとロンに言った。

リーの言葉に、二人は互いに自分が蛙になったときのことを想像したのだろう。椅子に腰掛けながら、それはないなと首を振った。それに、変身術は高等な魔法であり、人体を変身させるのは四年生には荷が重すぎると私は思った。

「ところで、魔法族って泳げるの?」
「んあ?…オレは泳げるけど、人によるんじゃねえの?」
「俺たちも泳げるぜ!あとジョージは潜るのが上手い」
「そういうフレッドは僕より速く泳げるよな!」

ふと浮かんだ疑問を、正面のリーにぶつければそう返ってきた。フレッドとジョージは、それぞれ泳ぎに得意不得意があるとのことだった。セドリックも、特に泳ぐのがダメだということも聞かなかったので、私は取り敢えず、第二の課題までにはウェットスーツを用意しなければならないなと思った。

20160313
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