万物流転 | ナノ
27.うたごえ3
セドリックが、浴槽の縁に腰掛けて隣りに座るように左手で縁を叩いたので、タオルを首に掛けながら、私は彼の隣りに腰を落ち着けた。セドリックは、髪から雫をぽたぽたと垂らせて、真摯な瞳は真っ直ぐと私を見ていた。

「1フレーズ目の『探しにおいで声を頼りに』は、2フレーズ目の『地上じゃ歌は歌えない』から分かるように、水中に住んでいる生き物の声…ホグワーツから近い場所にある水中といえば湖。つまり、そこに暮らす水中人――マーピープル――の声を頼りに、僕らは奪われた大切なものを探さなければならないんだ」

「なるほどね…。それじゃあ、5フレーズ目の『探す時間は一時間』って言うのは、そのままの意味で…制限時間は一時間ってことでいいわね?」

「僕もそう考えたよ。だから、7フレーズ目の『一時間のその後はもはや望みはありえない』で、タイムオーバーしたらアウトってことを意味しているんだと思う。…8フレーズ目の『遅すぎたならそのものは もはや二度とは戻らない』って言うのが、これは事実を言っているのか…」

「もしくは、私達に対しての脅しか。量り間違えると痛いわね」

私は、水牢の術で中に閉じ込めていた卵をじっと見上げた。泳ぎは苦手じゃないけれど、二月の湖がどんなに冷たいのだろうかと思うと、そこを泳がなければならないセドリック達選手のこと、そして私を含む残りの助手のことを、いち生徒として考える校医のマダム・ポンフリーの目が三角になるのではないだろうかと、水気をたっぷり含んでいる髪を恐々拭いた。

「ねぇ、4フレーズ目の『われらが捕らえし大切なもの』って、あなたは何だと思う?」

「それは――」

セドリックは、私から自分の足の上に置かれている両手の方へ視線をずらした。「セドリック?」と私が言えば、彼は言い辛そうに口をもごもごさせたり、何かを言いかけて開いた口をまた閉じてしまった。

『われらが捕らえし大切なもの』の『大切なもの』と言うのは、選手にとって大切なものと言うことでしょう?過去のトーナメントの歴史が載っている書物や、選手に課された競技種目とそのルールについて詳しく書かれている文献を調べてみたけれど、そこには昔から引き継がれているトーナメントの秘宝(例えば運動会で言う優勝旗等)の所載は炎のゴブレット以外になかった。

***

「…ねぇ、ハリー達は、卵の謎が解けていると思う?」

セドリックは、私の質問には答えないで話を切り替えてしまった。彼は何か考えていることがあったみたいだけど、私が知らなくても良いことなのだろうか。

「んー…難しいんじゃないかな。いくら、学年トップのハーマイオニーが味方についているとしても、まだ四年生だし…それに、ハリーもロンも卵のことを避けているみたいなの」

ここでちょっと悪戯心が芽生えた私は「…まるで、何処かの誰かさんの魔法薬学の課題みたいにね」と付け加えた。セドリックは「僕はちゃんと、指定日前にやり終えてスネイプ教授に提出したさ!」と非難めいた口調で言うも「期限日前にやり終えたのは今回だけ、でしょ?」と私の言葉でその勢いをなくした。

「…そうだね。今回だけ…だね」そう呟いてしゅんとした彼を見て「セドリックって、魔法薬学だけは苦手だよね」と私が言うと「どうしてだろうっていっつも思うんだけど、苦手は苦手なんだよ。…だって、右に三回混ぜても、左に三回混ぜても一緒のことだと思わないかい?」と半ば開き直った返事が返ってきたので私は笑った。

「…セドリックも、双子やアリシアと似たようなことを言うのね」

「要するに、まぁ…そういうことさ」と苦笑をしたセドリックは、咳払いをして「あー…その。レイリからはハリー達に教えてやれないのかい?」と言った。

「助手にはね、特殊な魔法が掛けられていて、自分が手助けをする選手以外の人には、他の選手が有利になるようなことが言えないようにしてあるのよ。だから、選手はおろか、助手同士でも、迂闊に課題についてのアドバイスや情報交換が出来ないの」

「そうだったんだ!…それじゃあ――僕がハリーにアドバイスをすれば…」
「…まぁ、そう言うことになるわね」

二人で、ハリー達にどの程度アドバイスをするかで頭をひねっていると、嫌なくすくす笑いが浴室に響いた。この声は!と私が声のする方へ身体を捩ると、一番背の高い蛇口の上にあぐらをかいて座っている女の子のゴーストがいた。

そのゴーストの名は、言わずもがな…いつもは、三階の女子トイレに取り憑いている『嘆きのマートル』であった。

20131027
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