万物流転 | ナノ
25.うたごえ
「遅くなっちゃったかな…?」

今日が提出期限の魔法史のレポートをビンズ教授に提出しに行く道すがら、角を曲がった私は、向かいの角から曲がってくるセドリックに会った。「やあ、レイリ」と爽やかに声を掛けてくる彼は、いつも通りの彼で、月曜日の早朝に見せた違和感などは、微塵も感じられなかった。

「君もこれから?」
「えぇ。そうよ。セドリックも?」

「僕もだよ。トミーが今日の昼まで終わってなくてね」と困ったように溜息を吐くセドリックに、私も似たような顔をして「うちもよ。双子には結局最後まで手を焼かせられたんだから」と話した。どちらからともなく、プッと自然に笑い出した私達は、ビンズ教授の部屋へ行くまで監督生話で盛り上がったのであった。

「グリフィンドールはこっち、ハッフルパフはこっちに置いて下さい」
「「はい、わかりました」」

「あー、さて…ミスター.ディゴリックは、四年生の未提出者に早く長期休暇課題を提出するようにと、伝えておいてもらえますか?…これが、名簿であります」
「わかりました。…僕が集めて持ってきた方がいいでしょうか?」

「いやいや。我が校の代表選手であるからして――君には、そんなことはさせられないでしょう。すなわち、提出は個人に任せて、君は…というより、君達は自分の課題に専念するのが良いでしょう」

「わかりました」
「お気遣い、ありがとうございます。ビンズ教授」

「ミスター.ディゴリエは、ホグワーツの代表選手であり、ミス.ユイファーはその助手であるからして――わたしも期待しておるのです。頑張りなさい」

ビンズ教授の部屋を出た後、私とセドリックは笑いの波に呑まれた。相変わらず、ビンズ教授は名前を覚えない人だなぁ。私のことを教授は何て呼んだ?ユイファーだったっけ?誰だよ、ユイファーって!どこをどうしたら、ウチハがユイファーになるんだよ!ビンズ教授、面白ろ過ぎだよ!

それに、セドリックのことをディゴリックとか、ディゴリエとか呼んでなかったっけ?ディゴリックという呼び方は、彼のファーストネームとファミリーネームを上手くまとめたと思うよ?けどさ、ディゴリエって…ディゴリエって何だよ!どこのゴリエちゃんだよ!このヤロウ!

二人して、ヒーヒー言いながらお腹を抱えて笑っているのを、怪訝な顔をしたスネイプ教授に見られてしまった。減点を言い渡される前に、何とか私は、まだ笑いの渦から脱出し切れていないセドリックの腕を掴んで、その場から離れるのに成功した。

「ふぅ…危ないところだったね」
「ありがとう、レイリ」
「笑いは治まった?セドリック」
「うん、なんとかね…」

笑い過ぎて涙が出てきたセドリックは、右手でそれを拭うと、綺麗な笑顔で私に向かって言った。「それは良かった。ディゴリエくん?」と悪戯っ子のような笑みを浮かべながら私が言えば「ブッ!…や、やめてよレイリまで!」と彼は吹き出した。

会話を続けながら、しばらく廊下を道なりに進むと、穴熊寮と獅子寮の分かれ道まで到着する。そして、私が「それじゃあね」と、彼に背を向けて歩き出そうとしたところで、パシッと手を掴まれて、クルンと後ろを振り向かされた。あれ?既視感?とかそう思っているうちに、セドリックが口を開き、私に「これから時間ある?」と尋ねる。

「課題の卵のことで相談があるんだ」
「卵の歌の謎でも解けたの?」
「あぁ。僕の仮説を君に聞いてほしいんだ」
「了解。…それじゃ、またいつもの場所で」

お互いに頷き合って、私達はその場で一旦分かれた。比べようがないから事実はどうだか分らないが、私達のペアは第二の課題について順調にことを進めているに違いない。

クリスマス休暇が開けてからの私とセドリックの日常はこうだ。授業が休みの土日と金曜の夜は、ほぼ監督生の風呂場にこもる。月曜から木曜までの放課後は、図書館で使えそうな魔法を探し、本を読んで知識を蓄える。そして、呪文を唱え実際に威力や効果を確かめる日々が続いている。

ちなみに今日は水曜日だ。いつもなら、夕食の後に、二人で図書館へ行くのだが、今日はセドリックからの提案で風呂場に行くこととなった。私は寮へと戻り、必要なものをかき集めると、軽量化魔法の掛っている例の鞄にごっそりと詰めて、再び肖像画の穴を抜け出した。

「あら?レイリ、もう少しで夕食よ!」
「用事が出来たの!私、セドリックと食べるから気にしなくていいよってアンジーにも伝えておいて!」

「そうなの?…それじゃあ、頑張ってね!」
「よろしくね、アリシア!」

20131027
title by MH+

*穴熊寮のトミーくんは捏造です
*また、ビンズ先生が間違えて言った『ディゴリック』は、親とのリアルな会話より
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