万物流転 | ナノ
21.あしおと2
純白の…まるで粉雪のようにきらきらと輝きながらふわふわと揺れるドレスに身を包み、それとお揃いの私の肘より少し長いドレスグローブをはめて、私はこの会場に逆戻りをしている。先ほどの深いスリットの入った緋色のドレスの時ほどではないが、不躾な視線が私を刺す。しかし、私はもうその視線など気にならなかった。

現在の私の姿を、分かりやすく例えて言うなら、あれだ。シンデレラだ。ガラスの靴は履いているわけではない。今の私が履いているのは、安っぽいハイヒールだ。カツカツと硬い音を響かせて歩いている私を、彼の有名なシンデレラと形容するのは烏滸がましいことこの上ないが、想像に足る明確なヴィジョンは、シンデレラのそれが一番しっくりくる。

何も私のために、ここまでしなくても…と思うのだが、私達のために骨を折ってくれたフレッドや、ジニー、アリシア、アンジー、そしてリー。さらには、ドレスが無いと言い訳をしていた私に、思い入れのある大切なドレスを貸してくれたモリーさんの恩に報いるためにも、私は一刻も早く、ジョージを見つけなくてはならなかった。

フレッドから、会場にいるアンジーとリーがジョージを上手く誘導して、私が見つけやすい場所へ彼を移動させているという手筈になっているのだが、何処を探しても、私はジョージを見つけることが出来ない。ダンスフロアの端を歩きながら、私は出そうになる溜息をぐっと堪えた。

もしかしたら、何も聞かされずに待たされたジョージは、もう会場の外へ出て行ってしまったのかも…。私は玄関ホールへと出て、開放されている正面玄関の扉から外へ出た。石段を降りて行くと、夜の冷たい空気に、私は…このままジョージを見つけられなかったら、と弱気になってしまう。

「セブルス!話を聞いてくれ!」
「イゴール、その話はもう終わりだ」

薔薇の茂みを掻き分けて出てきたのは、今日も今日とて真っ黒のドレスローブに身を包んだセブルス・スネイプ教授と、ダームストラング校校長のイゴール・カルカロフだった。縋るような声で教授の名前を呼ぶカルカロフに対して、スネイプ教授の返事はそっけなかった。

「ミス.ウチハ…こんなところで何をしている」
「…スネイプ、教授?」
「外は冷えるから、中へ入れ」
「…ちょっと、外の空気を吸いたい気分なので、」

何も映らない黒い瞳を、同じく黒い瞳の私が見つめ返すと、独特の低音で「…早く入るように」と私に告げて「はい、スネイプ教授」という私の返事を聞くと、まるで金魚の糞のようにカルカロフを引き連れて、校舎の中へと入って行った。


***


「もしかして…そこにいるのは、レイリかい?」

どれくらいの時間、私はここでボーッと立っていたかはわからない。聞き慣れたやさしい声に振り向くと、そこには、泣きそうな顔をした赤毛の男の子がいた。言わずもがな、その男の子は…私の探していたジョージ・ウィーズリーである。

「えぇ、そうよ。ジョージ」
「…どうして?君は――今夜は談話室で留守番だったろ?」
「今…あなたの目の前にいる私が、偽物だとでも言うの?」

ジョージは、まるでそこに根を張ってしまったかのように俯き固まっていた。私はそんな彼を見て、噴き出しそうになるのを我慢しながら、ゆっくり彼に近付いた。一歩、二歩、三歩…手を伸ばせば触れられる位置まで私が距離を詰めると、それに気付いたジョージが、ハッとして顔を上げた。

「私ね、本当のことを言うと…」
「…え?」

「あなたに誘われるのを待っていたの」

一旦喋り出してしまえば、その続きの言葉を紡ぐのは、そう難しいことではなかった。まるで魔法のように、すらすらと言葉が自分の口から流れ出てくる。私は一度深呼吸してから、目の前の不安そうな顔をしているジョージのそばかすをじっと見つめて、うるさい鼓動を落ち着かせようと思った。

「でもね、私…どうしてもダメなの。一度大切だと気付いてしまうと、どうしていいか分からなくなってしまうの」

20130929
title by MH+
[top]