万物流転 | ナノ
20.あしおと
「やぁレイリ。元気にしていたかい?」

足早に階段の方へ向かおうとすると、声をかけられた。久し振りに聞くその声に、私はくるんっと振り返ると、緋色のドレスの裾もぶわっと空気を孕んで舞った。

「パーシー先輩じゃないですか!お仕事ですか?」
「あぁ、そうなんだ。昇進して、今夜はクラウチ氏の代理でここにいるんだよ」

「そうだったんですか!昇進おめでとうございます」

私が笑顔でそう言えば、照れたように頬を掻きながら「あ、ありがとう…レイリ」と言った。パーシー先輩、変わらないなぁ…と思いながら彼の鍋底の規定についての話や、彼の上司であるクラウチ氏の体調不良についての話を聞きながら立っていると背後から物騒な声が聞こえてきた。

(ついに見つけたわ…行くのよフレッド!)
(ラジャー、ジニー上官!)

「レイリさん、確保!」
「とうっ!」
「のわっ!!」

後ろからの衝撃に、私は自分の前にいるパーシー先輩へと倒れ込んだ。パーシー先輩は、そんなフレッドに飛び付かれた私の巻き添えを喰らい、冷たい床へと倒れ込んでしまった。

「…あいたた、女性に飛び掛かるとはどういうつもりだ、フレッド! お陰で僕まで尻餅をついてしまったじゃないか!」

「どうもこうもねぇよパース!一大事なんだよ、ジョージの!」
「…はぁ?ジョージが一大事?」

「ごめんなさい、パーシー!私がレイリ先輩を捕まえるようにフレッドに頼んだの!」
「ジニーまで、一体何を考えているんだ!」

フレッドが私の上から退いて、私もパーシー先輩の上から退いた。って言うか、この構図…すごーくあやしいわよね。まるで、私が先輩を押し倒したみたいな…ははは。立ち上がる時にフレッドが手を貸してくれたけど…ジョージが一大事って、どゆこと?

「それについて、今説明してる時間はないの!」
「ほら、行くぞ!はやくしねぇと、十二時になっちまう!」

「ばいばい、パーシー!」
「…え、ちょっ!」

右にフレッド、左にジニーな状態でぐいぐいと引っ張られる私。首をグイッと捻って「し、失礼します、パーシー先輩!」と私が言うと、呆気にとられた表情の先輩の口が「…あいつら一体、何だったんだ?」と動くのが見えた。

大広間から一番近い空き教室に私を連れてくると、ジニーがどこからか取り出した箱を私に押し付けて「先輩。お願いですから、これに着替えて下さい」と言った。

「出入り口は俺たちで見張ってるから、着替えろよな!」とフレッドに促されて、私は仕方なくそのドレスに着替えた。変化の術を使えばあっと言う間なのだが、脱いだドレスが見当たらないと不審がられてしまうので、私は緋色のドレスを脱いでたたみ、空き箱の中へと入れた。

(フレッド?頼みって何よ)
(あぁ、アリシア!来てくれてサンキューな!)

「ねぇ、着替え終わったけど…」

「わぁ!レイリさん、花嫁みたい!」
「あら!そんな素敵なドレスどうしたのよ!」
「…すっげぇ、きれいだな」

私が扉の前に立つ赤毛の兄妹に声をかけると、フレッドに呼ばれていたらしいアリシアもそこにいて、それぞれに私の着ているドレスを褒めちぎった。

「そのドレス、ママの学生時代のなんだぜ」

「あなたたちのお母様って、とっても趣味がいいのね!」
「さっきまで着てたスカーレットのドレスも似合ってたけど…」
「こっちの白いドレスの方が、レイリって感じだな!」

そして「なるほど…それで、私が髪の毛をセットしてあげれば完璧ってことね?」と物知り顔のアリシアは、またまたジニーの準備した櫛やら髪飾りやらで私の髪の毛を美しく結い上げていく。

左から右に流れるように髪の毛は編み込まれて行き、たっぷりの三つ編みが二本完成した。右側の髪は一つに束ね、耳の下から三つ編みを合流させてそのまま下に向かってゆるめに編み込み、最後にその束を捩って頭の上に盛った。

きらきら光るストーンやパールのちりばめられた細身のカチューシャを、サクッと挿し入れて魔法で固めて、完成だ。

「我ながら、今回のヘアメイクも完璧だわ!」

それから、水分をたっぷり含んだコットンで顔をつるんと拭かれて(レイリに厚化粧は似合わないわ!)化粧水をはたかれ、目を瞑っている間に、素顔に近いようなナチュラルメイクを完成させたアリシア。

この子の女子力の高さに驚かされながらも、最後、リップグロスを友達に塗られるのは恥ずかしかったので自分でやらせてもらった。為されるがままって言うのが、私のステイタスだけど、こればっかりは…ちょっとね。

20130929
title by MH+
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