万物流転 | ナノ
22.あしおと3
だからあの日…セドリックから二回目の誘いを受けたあの日――あなたが教室の外にいることを知っていながら、私はあなたの気持ちの芽を摘むような発言をしてしまった。

「ごめんなさい、ジョージ」

僕はそう言うレイリの言葉に、頭が真っ白になりかけた。いや、寧ろ、彼女がここにあのドレスを身にまとって立っているという事実に、すでに頭は真っ白だった。僕は何も考えられないまま、彼女の口から発せられる言葉を、ただただ受け止めていた。

「それじゃあ、レイリ。君は、僕のパートナーになりたかったってこと?それで合ってる?」

「…えぇ。そういうことよ」

「今君がここにいるのは…みんなに言われたから?」

「…そうね。みんなが私のためにあれこれ手を貸してくれたってこともあるけど、でも、私がここであなたと面と向かって話をしているのは、自分の意志だよ」

私、臆病者だから…みんなに背中を押されるまでは、ジョージ。あなたの前にこの姿で現れる勇気なんてなかったわ。そう言って微笑んだレイリは、僕の冷えた手を、僕よりも一周りも二周りも小さい手で取ってきゅっと握った。じんわりと彼女から伝わってくる手の温もりに、僕はどうしようもなく愛しさが膨れ上がる。

「レイリ、ひとつだけはっきりさせておきたいことがあるんだ」
「なに?ジョージ…」

僕は、いつか振り絞った勇気を復活させて、彼女へ僕の思いを知ってもらうために、ただひたすら言葉を発そうと思った。今の関係は、とても居心地がいいものだけど、僕はもう、これだけの関係じゃ、物足りないんだ。

この言葉を発してしまえば、もしかしたら、これまでの関係には良い意味でも悪い意味でも、後戻りは出来なさそうだけど、その時はその時だ。僕は今夜、彼女に自分の気持ちを告げる。

「僕、ずっと前から、レイリのことが…」
「待って…ジョージ」

いよいよだ!と言う時に、僕は彼女のやんわりした制止の声に遮られ、さらには彼女の手によって口を塞がれてしまった。彼女の柔らかい手の肉が、僕のくちびるに触れていて、なんだか甘い匂いもするし…僕は頭がクラクラした。

「あー…レイリさん?こっからが大事なところなんだけど…」
「しー…少しだけ声を落として?」

片手の人差し指を唇に当て、静かにするように。というポーズの彼女は可愛かった。レイリはますます僕との距離を詰めてきて、僕の口元から肩、胸へ滑らせた手でドレスローブを掴むと「皆が聞き耳を立ててるのよジョージ」と僕の耳元で小声で喋った。

「え? みんなって…」と何とか聞き返せた僕であったが、彼女が耳元で話すたびに、彼女の吐息が耳にかかって、無性にくすぐったくて照れくさかった。ここが薄暗くて、本当に良かったと思う。もし、ここがパーティー会場内だったら、僕の赤毛ほどに染まった顔が彼女に丸見えだっただろう。

「あなたの片割れフレッドにジニーでしょ?…あっちには、アンジーとアリシア、リー、コンラッド…おまけに、向こうの石像近くにはハリーとロンまでいるわ!」

ちょっとだけ冷静になった身体で耳を澄ませると(ちょっと、よく見えないわ!フレッド肩車!)(無理言うなよ、ジニー!)と揉める家族の声に(リー!邪魔!)(あんたのドレットヘアで何も見えない)(そんな訳ねぇだろ!見えないからってオレに当んなよ!)(リー…そんなに大きい声出すと、ふ、二人に聞こえちゃうって!)と友人達の声。

「…ね?」
「こりゃ大変だ。…こら!僕たちは見せ物じゃないぞ!」

僕が薔薇の茂みの奥に向かってそう叫ぶと(わっ!ジョージにバレたぞ!何でだ?)と不思議がる彼に(リーがうるさいからよ!)とアリシアがリーの身体をビシバシ叩く音が聞こえる。(まあまあ、スピネット落ち着きなって)と彼女を宥めるラッドに(これ以上怒られる前に中入るよ)とアンジーが他の三人を校内へと促した。

それに続いて、片割れと妹も石段を上って行くのが見えた。ジニーに引っ張られて歩くフレッドが、ちらちらと僕ら二人を面白がって振り返るので、僕は片割れに対して、手でしっしと追っ払う仕草を返してやった。

「続きはまた今度でもいいかい、レイリ?」
「えぇ、勿論。…今度は皆に聞かれないような場所でどう?」

「そりゃいいや!」僕が笑うと、つられてレイリも笑った。今夜は、もう、これで十分かな。綺麗なレイリのドレス姿も見られたし…あ、でも。僕、まだ彼女と踊ってないや。

「僕と一曲踊りませんか?お嬢様」
「…あら。ふふ、あなたがリードして下さるなのなら喜んで!」

僕と彼女はダンスフロアへ行って、へたくそなワルツを踊った。二、三回レイリには足を踏まれたけど、それはそれで、踊るのは楽しかったし、他の野郎(主にセドリック)に彼女と踊っている姿を見せつけることが出来て、僕は大満足でした。

20130929
title by MH+

*告白は邪魔されちゃったけどね
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