12.うまれる
チャンスは今しかないと思った。僕は片割れに持たされた紙袋を右手に持ち、今しがた廊下の角を曲がって僕の10メートル前から姿を消したレイリの後を追った。
彼女は今、ひとりだった。夕食を済ませたから、彼女の行動パターンだとこれから図書館へ行くのだろう。僕も同じ角を曲がり、空き教室の前を早歩きで進んだ。
「―――だったかい?」
「――えぇ、まぁ――は?」
ちょうどその時、誰も居ないはずの教室の中から、二人の声がした。一人は、レイリで間違いない。そして、もう一人は…僕の恋敵である、あの口無し男(とレイリの前で言ったらシメられるけど)の声がした。僕は息を殺して、もっと部屋の中の声が聞き取れるように扉の前にしゃがんで耳をそばだてた。
「ねぇ、レイリ。君の気は変わらない?」
「…あなたには、もっと別の可愛い子がいっぱいいるでしょ?」
「でも、僕は、君と一緒に行きたいんだ。他の子とじゃなくて」
ひやりとした嫌な汗が頬と背中を伝う。もしかして、もしかしなくても!これって、多分…パーティーのお誘いなんじゃないか?いや、絶対そうだろう!どうしよう、僕が誘う前にレイリがもしOKしちゃったら!うわーうわー
「私、人前に出たくないの」
「僕だって人前で踊りたくないよ」
「そもそも私、踊れないもの」
「僕がリードしてあげるよ」
「私、ドレスがないの」
「僕が用意してあげるよ」
どうしよう。レイリがピンチだよ!あの口無し男が、こんなにも饒舌だったなんて!迂闊だった。僕は同じ寮なんだから、彼女をダンスのパートナーに誘うチャンスはいくらでもあったのに!
「はぁ…レイリは、一筋縄ではいかないね」
「私、いつも流されてるけど、ここぞって時は頑固なのよ」
「そっか…うん。わかったよ」
「やっと、諦めてくれたの?」
僕は腕の中の紙袋をいつの間にかぎゅっと抱きしめていた。くしゃりとかさついた音がやけに耳に残る。疲れたような声で言うレイリに、ディゴリーは笑って「君に無理強いをするのは、一回で十分だからね」と言った。僕が推測するに、一度目の無理強いは、あいつが自分の助手に彼女を任命したことだろうと思う。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいいかい?」
「その質問を合わせると、二つになるよセドリック?」
「はは!今日のレイリは意地悪だなぁ…」
二人が楽しそうに話しているのを聞いていると、なんだか、だんだんと心の中でもやもやとした暗い感情が生まれてくる。嫌だなぁ…前まではこんなことなかったのに。レイリのこととなると、どうして僕はこうなっちゃうんだろう。
「それで、ご質問は?」僕は次の彼の言葉を聞いた瞬間、自分の耳を疑わざるをえなかった。
「君は、ウィーズリーが誘ってくれるのを待ってるのかい?」
え?どういうこと?それって…もしかして――彼女が僕に誘われるのを期待しているってこと?え、え、え!そんな、まさか!それって、え!
「何を言い出すのかと思えば…」
「レイリ、僕以外の人からもたくさん誘われてただろう?」
「…まぁ、そのことについては否定はしないけど」
「誰からの誘いも受けないってことは、君は特定の誰かからの誘いを待ってるってことじゃないか?」
僕の頭の中では、僕の都合の良いように解釈されていく。レイリは沢山の人から誘われる→しかし断る→ディゴリーの二度目の誘い→しかし、返事は変わらず→今日はクリスマス・イブ→レイリはまだパートナーがいない→ウィーズリーが誘ってくれるのを待ってる→現在フリーなウィーズリーはこの学校ではロンと僕の二人しかいない→ロンは有り得ない→僕しかいない!
はじき出された結論に、半ば有頂天になりながら、両足に力を込め(ジョージ、勇気を振り絞れ!男を見せろ!彼女はお前からの誘いを待ってるぞ!)僕は、意を決して立ち上がった。心の声も僕を応援している。
しかし、彼女の以下の言葉を聞いた途端に、奮い立たせた勇気なんてものは、あっと言う間にしぼんでしまったのだけど。
「私がジョージのことを?…面白い冗談ね。いつも顔を合わせてる彼と私が、一緒にダンスをするなんて有り得ないわ、絶対」
20130921
20160312修正
20160822修正
title by MH+
*フラグはへし折れ!ジョージくん、哀れ
←|*|→
チャンスは今しかないと思った。僕は片割れに持たされた紙袋を右手に持ち、今しがた廊下の角を曲がって僕の10メートル前から姿を消したレイリの後を追った。
彼女は今、ひとりだった。夕食を済ませたから、彼女の行動パターンだとこれから図書館へ行くのだろう。僕も同じ角を曲がり、空き教室の前を早歩きで進んだ。
「―――だったかい?」
「――えぇ、まぁ――は?」
ちょうどその時、誰も居ないはずの教室の中から、二人の声がした。一人は、レイリで間違いない。そして、もう一人は…僕の恋敵である、あの口無し男(とレイリの前で言ったらシメられるけど)の声がした。僕は息を殺して、もっと部屋の中の声が聞き取れるように扉の前にしゃがんで耳をそばだてた。
「ねぇ、レイリ。君の気は変わらない?」
「…あなたには、もっと別の可愛い子がいっぱいいるでしょ?」
「でも、僕は、君と一緒に行きたいんだ。他の子とじゃなくて」
ひやりとした嫌な汗が頬と背中を伝う。もしかして、もしかしなくても!これって、多分…パーティーのお誘いなんじゃないか?いや、絶対そうだろう!どうしよう、僕が誘う前にレイリがもしOKしちゃったら!うわーうわー
「私、人前に出たくないの」
「僕だって人前で踊りたくないよ」
「そもそも私、踊れないもの」
「僕がリードしてあげるよ」
「私、ドレスがないの」
「僕が用意してあげるよ」
どうしよう。レイリがピンチだよ!あの口無し男が、こんなにも饒舌だったなんて!迂闊だった。僕は同じ寮なんだから、彼女をダンスのパートナーに誘うチャンスはいくらでもあったのに!
「はぁ…レイリは、一筋縄ではいかないね」
「私、いつも流されてるけど、ここぞって時は頑固なのよ」
「そっか…うん。わかったよ」
「やっと、諦めてくれたの?」
僕は腕の中の紙袋をいつの間にかぎゅっと抱きしめていた。くしゃりとかさついた音がやけに耳に残る。疲れたような声で言うレイリに、ディゴリーは笑って「君に無理強いをするのは、一回で十分だからね」と言った。僕が推測するに、一度目の無理強いは、あいつが自分の助手に彼女を任命したことだろうと思う。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいいかい?」
「その質問を合わせると、二つになるよセドリック?」
「はは!今日のレイリは意地悪だなぁ…」
二人が楽しそうに話しているのを聞いていると、なんだか、だんだんと心の中でもやもやとした暗い感情が生まれてくる。嫌だなぁ…前まではこんなことなかったのに。レイリのこととなると、どうして僕はこうなっちゃうんだろう。
「それで、ご質問は?」僕は次の彼の言葉を聞いた瞬間、自分の耳を疑わざるをえなかった。
「君は、ウィーズリーが誘ってくれるのを待ってるのかい?」
え?どういうこと?それって…もしかして――彼女が僕に誘われるのを期待しているってこと?え、え、え!そんな、まさか!それって、え!
「何を言い出すのかと思えば…」
「レイリ、僕以外の人からもたくさん誘われてただろう?」
「…まぁ、そのことについては否定はしないけど」
「誰からの誘いも受けないってことは、君は特定の誰かからの誘いを待ってるってことじゃないか?」
僕の頭の中では、僕の都合の良いように解釈されていく。レイリは沢山の人から誘われる→しかし断る→ディゴリーの二度目の誘い→しかし、返事は変わらず→今日はクリスマス・イブ→レイリはまだパートナーがいない→ウィーズリーが誘ってくれるのを待ってる→現在フリーなウィーズリーはこの学校ではロンと僕の二人しかいない→ロンは有り得ない→僕しかいない!
はじき出された結論に、半ば有頂天になりながら、両足に力を込め(ジョージ、勇気を振り絞れ!男を見せろ!彼女はお前からの誘いを待ってるぞ!)僕は、意を決して立ち上がった。心の声も僕を応援している。
しかし、彼女の以下の言葉を聞いた途端に、奮い立たせた勇気なんてものは、あっと言う間にしぼんでしまったのだけど。
「私がジョージのことを?…面白い冗談ね。いつも顔を合わせてる彼と私が、一緒にダンスをするなんて有り得ないわ、絶対」
20130921
20160312修正
20160822修正
title by MH+
*フラグはへし折れ!ジョージくん、哀れ
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