万物流転 | ナノ
11.おうえん5
「もう申し込んだの?」と固まるロニー坊やに「いい質問だ」と応えた片割れフレッド。そして、彼は、くるっと身体を反転させて振り返った。

こちらとは反対側にあるテーブルで額をくっ付き合わせてレポートをしているアンジーたちの方向へ視線は向いており、それからフレッドは、すぅと息を吸い込み談話室の向こうに声をかける。

「おーい、アンジェリーナ!」

暖炉のそばで、羽ペンを走らせていた彼女は、フレッドの声に反応して「なにー!」という声が返ってきた。その顔色に好感触を感じた片割れは、いよいよ「俺とダンスパーティに行くかい?」と言った。言ってしまったのだ。

アリシアは、アンジーの肩を突いてにやにやしている。そして、アンジーは、まるで品定めでもするかのように、フレッドの髪の毛から足の爪先までを二、三回上下に目を動かせて見ていた。

僕の隣りに立つフレッドは、自信満々と言った顔で、彼女の『Yes』の返事を待っている。

「いいわよ」

「やったー!ありがとう、アンジー」
「仕方ないから、私があんたと行ってあげる」

彼女はそう言うと、また姿勢を元に戻して、魔法薬学のレポートの仕上げに取り掛かっていた。口元が微かに笑っており「仕方ないから」とOKしたアンジーであったが、満更でもなさそうだ。

こんなにあっさりと、自分とダンスパーティーへ参加することを了承してもらえたフレッドが羨ましい。そして、自分の気になる子に臆病な心も見せずに、自信たっぷりで話しかけることができるフレッドの心が羨ましい。

どうしてだろう。どうして僕って言うのは、フレッドと双子なのに、こうまで彼女に対して臆病なんだろう。フレッドと僕は、いったい何が違うんだろう…。

「こんなもんだ。かーんたん、だろ?」とフレッドがロンとハリーに言ったけど、僕ら誘えない組、またの名を勇気が出ない組にしてみれば、女の子を自分のペアに誘うってことは、非常に難しいことである。溜息を吐きたい僕と、欠伸をした片割れ。

「学校の梟を使った方が良さそうだな、ジョージ。行こうか…」

僕の背中を押すフレッドの手は、僕と同じ大きさのはずなのに、今だけは、やけに大きな手のような気がした。フレッド、やっぱり君はすごいよ。だって、僕よりずっと勇敢だもの。

温かい談話室を出て、冷たい廊下の空気を肺いっぱいに吸い込んだ時、惨めな気持ちさえも、どっと僕の中に流れ込んできたような心地になったのであった。

20130914
title by MH+

*恋に臆病なジョージ視点
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