万物流転 | ナノ
5.とくべつ4
呪文学と薬草学の補習授業を受けて、寮へと帰ってきた私はぐったりとしていた。十二月に入って、ますます寒くなったホグワーツ校内はどこもかしこも冷える冷える。

寒いのが嫌いな私は、黒のタイツに黒い足首までの靴下と、膝下丈のこれまた黒いソックスを二重にも三重にも重ね履きし、上はローブの中にカーディガンを着込んで去年のクリスマスにモリーさんからの贈り物である手編みの白いマフラーをぐるぐると首や肩に巻き付けていた。

人一倍もこもこな私は、最近何かとアリシアやジョージらなどから抱き着かれることが多く『みんなも寒いんだね。おしくらまんじゅうしたいんだね』と思っている。

ところで、おしくらまんじゅうのルールを知っているだろうか?おしくらまんじゅうは、漢字で書くと『押し競饅頭』と書き、複数人で互いに背中や肩などを押し合って行う遊びであり、主に秋や冬などの寒い時期に子供達の間で行われている。

また、東の海に浮かぶ小さな島国――日本では、子供も大人も一緒になって、水上おしくらまんじゅう大会が開催されるほど、大人気の昔ながらの遊びである。

おしくらまんじゅうを楽しむためには、最低でも四人かそれ以上の参加者を必要とし、参加者はお互いに背を向けて円陣を組んで両側に立つ参加者の腕に自分を絡め、勢いを付けて自分の身体を円陣の中心に向かって押し込んだり、今度は逆に外側へ向けて引っ張ったりするのである。

この押したり引っ張ったりの動作によって、身体を温める効果が得られることが、秋や冬の寒い時期に行われる所以である。参考は、フリー百科事典ウィキペディアより。寒くなってきたこの時期、あなたのお友だちとおしくらまんじゅうを楽しんでみてはいかがだろうか?

…と言うのは、どうでもいいことなので置いておく。私の下らない話で行数を稼いでしまって、申し訳ない。話を戻そう。マクゴナガル女史からクリスマス・ダンスパーティーの連絡があってから、校内は一気にクリスマス関連の話で持ち切りになった。

一介のグリフィンドール生であるこの私にも、同じ寮の先輩後輩ひっくるめて合計四名からパートナーへのお誘いを受けたが、私はその全てを丁寧になるべく相手を傷付けないように断った。私が断った相手の方も、やっぱりか…と言うような表情をして私の前から立ち去って行った。

どうして、四人ともがみんな似たような顔をして行くのかを不思議に思っていたところに、セドリックからのお呼出だ。朝食の席で「あ、セドリックからだ」と梟から手紙を受け取り呟く私。

その声を聞きつけた斜め向かいに座るジョージは、私の方に目が釘付けとなり、皿の上のソーセージには掠りもせず、何度も何度も木のテーブルにフォークを突き立てていた。

そんなジョージを見て、意味ありげに肩をすくめたフレッドとリー。相変わらず、アンジーの食べっぷりに見とれていると、肩をつつく隣りのフレッドが私に耳打ちしてきた。(レイリは誰とダンスパーティー行くんだ?もう誘われたか?)耳元から離れて近いところからじっと目を見つめられると、心は穏やかではない。

(フレッドには、…その、あまり関係ないと思うけど?)
(確かに、俺はアンジーを誘うつもりだからな)
(そうなの!まぁでも、彼女OKってあなたに返事すると思うわ)
(本当かよ!やったぜ!…じゃなくて、)

「俺の話は別にどうだって良いんだよ!」
「…うん?」

小さくガッツポーズを決めたフレッドは(だからよ、要するにだなレイリ)私の肩を抱き、ぐるりと反転させて正面のリーやジョージに背を向ける格好になった。そして、親指で後ろを指して(俺の片割れについてだ)とこしょこしょと話し出した。

「少しは、ジョージのことも考えてやれって」
「え?ジョージのこと?」
「声落とせよ、レイリ。ジョージに聞こえちまう」

「なに急に兄貴面してんのよ、フレッド。ジョージを女の子達が放っておくとでも思うの? 片割れのことなのに、どうして消極的になってるのよ。…大丈夫。だってあなた達は、ただでさえ悪戯で目立ってるし、クィディッチではビーターでしょ?」

「お、おう…。 いや、でもな、」
「実際、あなた達ってファンクラブがあるくらいの人気者なのよ?」

「それはそうだけど…。 なぁ、本人様が誰と行きたいかとか、レイリは気にならねぇの?」

ちらっと後ろを振り返ると、ボーッとするジョージをリーがなんとかして、こちら側に意識を取り戻させようとして躍起になっていた。

「私は…別に。ジョージが誰と参加しようが、気にしないわ。パートナーが誰であれ、彼が楽しめるならね」

20130914
title by MH+
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