万物流転 | ナノ
54.めいしん9
僕はセドリック・ディゴリー。ホグワーツ魔法魔術学校に通う六年生だよ。そして、トライウィザード・トーナメントにホグワーツの代表選手のひとりとして出場することになったんだ!

トライウィザード・トーナメント。通称:三大魔法学校交流試合では、今年は特別なルールが設けられて、代表選手一人につきひとり助手を任命できるってことも魅力だった。

クィディッチが出来なくなるのは、多少なりとも僕を落ち込ませたけれど、僕が代表選手に選ばれたときは、息が止まりそうなほど驚いたよ。だけど、それ以上に毎年目立たないぼんやりとしたイメージを持つハッフルパフから、僕と言うホグワーツの名を背負う代表選手が選ばれてとても光栄に思った。それに、僕は穴熊寮の名を揚げるチャンスだとも思ったね。

僕は誰が助手に最適だろうと考えてみたけど、僕の頭の中に浮かんで来たのは、たったひとり。それはこれまで一緒に過ごしてきた同じ寮の男友達でも、同じ寮の女友達でもない。グリフィンドール寮の同級生で、思わず見蕩れてしまう長く美しい黒髪に、色白で、小柄な女の子。レイリ・ウチハだった。

大勢の前で彼女の名前を呼んで、助手になるように頼んだ。彼女が沢山の人の前が苦手なことも、彼女が僕のお願いには首を横には振らないことも知っていながら、彼女の最後の道を断つような真似をしたのは、自分の行動ながら、卑怯だとは思った。

だけど、拒否されるのが怖かったから、当日になるまで、彼女に自分の助手になって欲しいということを伝えることが出来なかった。何度も彼女に大広間で声をかけようとした。けれど、上手く声が出なかったんだ。だから、僕のことを敵視する双子から「口無野郎」だって罵られても構わない。あぁレイリ、臆病な僕を許してほしい。

第一の課題当日。僕はトップバッターで、少なからず緊張していた。でも、後輩のハリーやロンから温かい声をかけられて自分を奮い立たせた。そして、隣りに立つ彼女からは「私は全力であなたを援護する。あなたは、私を…そして、自分を信じて」と言葉を貰った。その言葉に、僕は指先の震えがピタッと止まり、身体の中心からじわじわと力が漲ってくるのを感じたんだ。

ドラゴンは恐ろしかった。けれど、僕にはもう迷いはなかった。彼女が必死でドラゴンの気を惹こうと、人間離れした脚力で飛び回ってくれて、僕は当初の予定よりも殆ど杖を振るうことはなかった。金の卵を手にした瞬間、喜びに沸いた心に一瞬の隙が出来て、ドラゴンがこちらを向いて口を開けたことに反応するのが遅れてしまった。

『水遁・水乱波!』

ドラゴンは僕の方へ鮮やかな青い高熱の炎を吹付けた。それを見た岩の上に立つ彼女が聞き慣れない言語で何かを叫ぶと、レイリの口唇からは大量の水が吐き出されてドラゴンに一気にかかって鎮火した。僕はそのドラゴンの一吹きによって、顔を火傷してしまったけれど、彼女に怪我がなければなによりだ。

視界の端には、ドラゴンを取り押さえようとするドラゴンキーパー達が控えていて、その中の一人に若い赤毛の男性が映った。きっとあの人こそが、伝説のシーカーであるチャーリー・ウィーズリーその人なんだろうなぁと、焼けるような痛みを顔に感じながら、どこか他人事のように考えていた。

20130908
title by MH+
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