万物流転 | ナノ
53.めいしん8
結局、選手のみの出場を決めたのは、ダームストラング校のクラムただ一人で、他の三人の代表選手は助手と二人で力を合わせての参加を望んだ。確かに、あんな青い顔をして身体をブルブルと震わせる腰抜けを、自分の助手として参加させても、足手まといにしかならないだろう。

「全員の意志が決定したようじゃの」

「順番は、ホグワーツ代表ミスター.ディゴリーと助手のミス.ウチハ。二番はボーバトン代表ミス.デラクール姉妹。三番はダームストラング代表ミスター.クラム。唯一の選手のみの出場と…最後にホグワーツ代表のミスター.ポッターと助手のミスター.ウィーズリーだ。間違いはないかね?」

クラウチ氏が、羊皮紙を読み上げると代表選手たちはお互いに頷き合った。「ぼ、僕たち最後だよ!」と悲鳴に似たうめき声を出したロンに、ハリーは「仕方ないよ。四人目の代表選手なんて異例なんだから」と諦めるように呟いた。

大人達がテントを出て行き、残された子供達は一層落ち着きをなくして、テントの中を歩き回ったり、椅子から立ったり座ったりを繰り返していた。そんな彼らを見ているうちに、どんどん気持ちが覚めてきて冷静になった私は、座っているハリーとロンに温かいカモミールティーを持って行ってやった。

「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ!」
「ぼ、僕大丈夫です!」

カップをカタカタいわせながら、ずずっとお茶を啜ったロンくんが「アチッ!」と言って唇を火傷させていた。不安げに瞳を揺らめかせるハリーが「先輩は緊張しないんですか?どうして、そんなに平気そうなんですか?」と聞いてきて、私はそんな後輩二人の頭を軽く撫でながら言った。

「だって、今更あれやこれや悩んで緊張したって、どうすることもできないのよ? それなら、潔く腹を括って、いつも通りに自分の力を信じて戦うしかないわ。たしかに、ドラゴンは怖いけれど…私にはセドリックがいるもの。ねぇ、セドリック?」

「あぁ、そうさ!僕はレイリほど落ち着けてる訳じゃないけど、僕らには友がいる。それに、応援してくれる仲間がいる。きっとこの課題をクリアすれば、君達に向かって悪口を言うやつらなんて、いなくなるだろうよ」

にこっと人好きする笑みを浮かべて、こちらへ歩いてきたセドリック。ハリーもロンも、私や彼の言葉で勇気づけられたのか、さっきよりも随分落ち着きを取り戻していた。

「僕、君のこと勘違いしてた!」と言うロンに「なんだい?」とセドリックが聞き返した。

「フレッドとかジョージから、君のこと『二つの言葉をつなげる頭もない』って聞いてたし、去年の寮対抗クディッチ杯では君にスニッチを取られて負けちゃったから、僕、一方的に嫌なやつだなって思ってた」

「でも違った!」きらきらとした目でセドリックを見上げるロンに、ハリーがカモミールティーの入ったカップを両手で持ちながら言葉を付け足した。

「セドリック、君は完璧だよ。誰にでも優しいし、背が高くてハンサムだし、成績も優秀で、レイリと同じでハッフルパフの監督生もやってるし。クィディッチは、箒捌きは別格で、僕が一番苦手なシーカーだし、それにキャプテンもこなしてる!」

「そ、そんなに褒められると…照れてしまうよ?」

「それに、ハリーがゴブレットに名前を入れてないってことも信じてくれた!」半ば崇めるような視線を後輩二人から受けているセドリックは、いつになく頬を染めて、右手で頭の後ろをかいていた。

ダンブルドアのアナウンスがその時かかって、私達の試合が始まった。テントを出る時、後ろからハリーとロンの声で「僕、この試合にはセドリックに優勝してほしいな…」と呟かれるのを聞いたので、私は隣りに立つまだ頬の赤いセドリックの腕を突いた。

「あんな風に言ってもらえるなんて…後輩二人には、かっこわるい姿は見せられないね」

アナウンスの『ミスターディゴリーとミスウチハは、大砲が鳴ったら…』と言う声をどこか遠くに聞きながら、はにかんで歩く彼の横顔を、私は眩しくて目を細めながら見つめたのであった。

20130908
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